Abdou El Omari - Nuits D'Été Avec Abdou El Omari

アラビア音楽、北アフリカ音楽、果てはモロッコの音楽となると我々はなかなか聞く機会に欠けるだろう。筆者も「Soundway」「Amha Records」「Heavenly Sweetness」といったアフリカ系音楽を紹介しているレーベルの作品を通じて、ナイジェリアのジャズ・ファンクエチオピア歌謡なんかをちょっとかじっていたが、モロッコの音楽に関してはアーティスト単位で聴いたことはなかった。そこに新しく舞い込んできた出会いだったのが、偶然にもベルギーの「Radio Martiko」というレーベルが発掘したモロッコのキーボーディスト、Abdou El Omariの再発・未発表音源シリーズだ。

ロッコというと19世紀以降フランスの植民地となったアラブ世界と地中海世界を結ぶ要衝と知られる日本人には馴染みの薄い土地だ。しかし、そんな辺境の地にも欧米のサイケデリック・ミュージックを受容し、独自進化を遂げた強烈な個性が存在したことをこの作品は物語る。それもこの上なくディープに...。Abdou El Omariはモロッコに生まれ、モロッコに没した伝説的ミュージシャン、作曲家にしてプロデューサーで、モロッコの伝統的な音楽のリズムとサイケデリック・ロックやジャズなど、現代的な音楽を溶け合わせたパイオニアの一人。この作品『Nuits D'Été Avec Abdou El Omari』はモロッコカサブランカを拠点に活動する「Disques Gam」という2017年現在も現役の老舗レーベルから1976年にリリースされた作品で、実に40年もの時を超えての再発となる。オリジナルの値段はdiscogsのマーケットプレイスで10万円は下らないという激レア具合。

これを再発したベルギーの「Radio Martiko」は、アルメニアのロックやイランのサーフミュージックなどをプレイするDJコレクティヴで、2015年からレーベル展開を始め、最近はギリシャのライカ・ミュージックなども再発している。日本にもメディテーションズやディスクユニオン、ロス・アプソンなどを始め何店舗かに流通しているが、初売はソールドアウトが相次いでいたと記憶する人気盤だ。アラビア音階が妖しく響き渡るディープなそのサウンドは聴く者を酩酊させる。辺境プログレさながらのオルガンさばきとヒプノティックなコーラスが交差するアラビアン・コズミック・オルガン。欧米のサイケデリック・ロックがブルースやフォークなどに根差しているのに対して、ジャズやファンクなど下敷きの違いが浮き彫りになっている。辺境モノらしいと言ったら失礼かもしれないが、開かれた感性と天然ぶりが滲み出ていて、泥臭さも愛らしい。

本作とは別に同レーベルからは今年7インチ音源集も出ているのでそちらも要チェック。