読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Second half of 2016 : Best 50

まずは今年も一年間お世話になった全ての方々に感謝を述べたいと思います。無事、大学三回生を乗り切りつつあり(?)冬も深まって透明な空気が心に沁みてきています。下半期も相変わらず、〝デブ・ラーメン〟を食べ、レコードを買い漁りまくりましたが、データやストリーミングサービスで聞く数も増えたかもしれません。さて、下半期ベストというものを発表するのは賛否あるとしても、純粋に楽しんだ証として記録したいと思います。よろしくお願い致します。アルバムタイトルをクリックすると楽曲に飛びます(PC閲覧推奨)。

f:id:Natsuyasai:20161215065807j:plain

50. SKY H1 - “Motion EP” (Codes)

PANのサブレーベル、CodesからはKamixlo(カミーロと読むらしい)らに続いてはBala Clubのコンピで気になっていた、新たなるシンセ女子!なんともエキゾティック、恍惚感に満ちてドリーミー。オンライン・ゲーム世代に通じるサンプリング感覚もインターネットの深淵で培われたものに違いない。LAFMS関連やフリージャズを出していたのが、こういうアーティストを引っ張ってくるほどに変化を経てしまったPANみたいなレーベルは稀有だ。これからもこんな音楽をキュレーションし続けるならあまりにも食指が動かされてならない。

f:id:Natsuyasai:20161222082454p:plain

49. Marie Davidson - “Adieux Au Dancefloor” (Cititrax)

名門レーベル、Minimal Wave傘下のCititraxから帰還のカナダ・ケベックはMarieさんの新作。地味だけど、洗練されてる。レーベルカラーにマッチした文字どおり王道をいくミニマル・シンセさばきとフランス語混じりの妖艶なヴォーカルでケベックの祝福された大地を彷徨う魔女の貫禄衰えることを知らず。埃っぽさはなく、無機質な空気感でありながらもインダストリアルな趣き多々ありな良作。クラフトワークの「コンピューター・ワールド」が好きな人にも薦められる作品かも。

f:id:Natsuyasai:20161215065838j:plain

48. Vesuvio Solo - "Don't Leave Me In The Dark" (Banko Gotiti Records)

Summer Coolのコンピレーションカセットで出会って以来、フルレンスを心待ちにしていたケベックモントリオールの麗しのデュオ。モントリオールってつくづく夢みたいな音楽が生まれる夢みたいな風土が広がっているような土地柄にも感じられる。もう一曲目からノックアウトだね。"Don't Leave Me In The Dark"というトラック名からして反則だ。贅肉付いてないというか、ゆったりとした気分で浸れる生活感のある音楽。

f:id:Natsuyasai:20161215065854j:plain

47. WWWINGS - “PHOENIXXX” (Planet Mu)

サウンドクラウドでよく名前を見かけていたインターネット・アンダーグラウンド拠点の三人組による新世紀のインストゥルメンタルグライム。オンラインの感性でふんだんに切り貼りした先鋭的で不穏な音風景には近未来のディストピアを彷彿させられる。不死鳥というタイトルを関するだけあって、黄泉の響きを現世に齎す異次元の異国情緒が全編に漂う。フューチャリングもあまりにも豪華なメンツでNONやNAAFIよりChino AmobiとImaabs、Hyperdubからデビューを決めた盟友Endgameなど素晴らしいラインナップが各楽曲に参加していて、まさにインターネット・アンダーグラウンドの代表格が一堂に会するショーケース。

f:id:Natsuyasai:20161215065934j:plain

46. Emotional - "Emotional" (Milk)

Nite Jewelを感じるヤツやっぱり来てました。今はもうどこにも置いていない気がするメロン味のガムみたいに多幸感溢れるクリーミーさで万人の心を潤す美麗ヴォーカルなシンセポップ。参加メンバーの音楽性もふんだんに取り込まれ、関連バンドを感じるニューウェイヴ/パンキッシュな曲もあって起伏に飛んでいる。でもちょっとオシャレ過ぎかも。いや、そこが良いんだけどね。

f:id:Natsuyasai:20161215070054j:plain

45. Katie Gately - "Color" (Tri Angle)

2014年、Arcaの「Xen」の衝撃に、その流れを回収されたかに見えたTri AngleもRabit、Lotic、Brood Maらのデビューでもはや巻き返したと確信を持てる。新たな刺客もネクストステージへとを向かうようで、Fat CatからTlaotlonとデモ・スプリットを発表していた女性サウンド・デザイナーが登場した。オンライン・アンダーグラウンドに感化された立ち振る舞いで繰り出される耳好いグリッチに添えられるヴォーカル、ファティマを彷彿させるエキゾティシズム、そしてポスト・インダストリアルな質感でノリにのっている。

f:id:Natsuyasai:20161215065520p:plain

44. Kuedo - "Slow Knife" (Planet Mu)

Vex'dの1/2として活躍してきたダブステップの伝説的存在、Kuedoの五年ぶりのフルアルバム。昨年のKnivesからのヴァイナルよりも瑞々しいウェイトレスに趣を傾けた。トラップやジューク/フットワークに影響を受けたハイブリッドなビートと感情の機微を捉えた豊かな音色。緩やかにカーブするフィヨルドのような洗練された自然美。未だに衰えを知らない得体の知れぬ初期衝動は健在でした。今年はPlanet Muにワクワクされられた年だった。これからは注視していかないとね。

f:id:Natsuyasai:20161215070526j:plain

43. Warehouse - "super low" (Bayonet Records) 

どこかSheer Magを感じさせられるバカっぽくて、野性滾るパワフルさはやはり愛らしい。鈍足で駆け抜けるアート・パンク(?)しかし、意外にもフィリーじゃないらしいし、The B-52'sに影響を受けているというのも好印象。バックグラウンドは80年代にありながら、今の時代でしか出せないこのユルさ、そしてムダの多い演奏も最高にいかす。ブルックリン以降の生活感溢れるバンドサウンドを体現する彼女らはまさに10年代以降のインディそのものである。

f:id:Natsuyasai:20161215070615p:plain

42. J.G.Biberkopf - "Ecologies Ⅱ : Ecosystems Of Excess" (Knives)

この人も熱いッ!Kuedo主催のKnivesのキュレーションによって登場したこのアーティストもまたポスト・インターネットの枠組みの中では捉えきれない膨大な情報量を誇り、昨今のウェイトレス・グライムニューエイジのコンテクストも正確に捉える知性と恐らく今一番エクストリームな感性を兼ね備えている。ダンスフロアにもベッドルームにも馴染むミュージックコンクレートのエクスタティック。

f:id:Natsuyasai:20161215070638j:plain

41. El Perro Del Mar - "KoKoro" (Ging Ging Recordings)

これはジャケ買いしちゃった。(カセットでだけど。)日本や中国、タイ、インドなどの音楽にインスパイアされたというエキゾティックな音響空間が満開の花を咲かせるインディ・ポップの究極系というべきか。ミュージカル・プロジェクトとして始まったらしく、その魅せ方も趣深く、目の前に情景が思い浮かべられるファンタジーが詰まっている。初めて聞いたとき「微妙」って言ってしまったことをこの場で謝罪するべきでしょうな。

f:id:Natsuyasai:20161215070818p:plain

40. Seekersinternational - "LoversDedicationStation" (Bokeh Versions)

延焼を引き起こし、軋む古いレコード、西部開拓時代〜近代のカオス、未だ見ぬ音楽の香りが全世界へと広がっていくオブスキュア・ダブ。カナダより期待の変形電子音楽の真髄、シーカーズインターナショナル最新作なのだけど、あいかわらず(ホントに)全くもってつかみどころのないこの音風景には魅了される。破天荒なサンプリング・コラージュで繰り広げられるワケのわからんミュータント・サウンド。異国情緒を超えた変態的な何かには脱帽せざるを得ない。ハッキリとは認識できない異質のものがここにあるといえるであろう、2016年の名作(迷作?)ダブ・アルバム。この浮遊感は天竺をも超えて進むにちがいない。

f:id:Natsuyasai:20161215071106p:plain

39. Ectoplasm Girls - "New Feeling Come" (iDEAL Recordings)

Joachim Nordwallが率いる最高の実験レーベル、iDEAL Recordingsからはニッチな友人達が待ち焦がれた渾身の新作。スウェーデン在住のNadine Byrne(ナディーヌ・バーン)とTanya Byrne(ターニャ・バーン)姉妹によるEctoplasm Girlsである。ダーク・アンビエントから自殺ブラック・メタル、デス・インダストリアルといった暗黒神話的な音楽性に深く根付き、霊的体験や黒魔術といったホラーな要素にインスパイアされたような、猟奇的なノイズ・ビートと収縮するドゥーミーな音響が絡み合い、その感触は右から左へと抜けていく血染めのエクスペリメンタル・エレクトロニック。その感触は虚無に近い。「New Feeling Come」、彼女達の今の気分なのかもしれない。

f:id:Natsuyasai:20161222081054p:plain

38. Mary Lattimore & Maxwell August Croy - “Terelan Canyon” (Constellation Tatsu)  


上半期ベストでも紹介したハープ奏者、Mary LattimoreとRoot Strataの主催者であるドローン作家、Maxwell August Croyのコラボレーション作品。情緒的であるとかセンチメンタルじゃないかというよりはどことなく虚無的で、琴とハープによる弦楽重奏は純邦楽のような静謐で有限な調べであり、そこにエレクトロニクスも乱れ入り、反アンビエント的とも言える不協和音が火花を散らしている。いたく危うさを孕んでいて、不吉、心の闇を凝縮したような不穏さを秘めている。これを聴いていてふと「遺失物取り扱い係」というよく分からない日本語が頭をよぎった。最初からそこには無かったもの、そうしたものに思いを巡らされたりしそうである、云々。

 

 

f:id:Natsuyasai:20161215065709j:plain

37. Aquarium / 外神田deepspace - “Luxury Water Jewels” (X-Kalay) 

今年のヴァイナルの中でも飛び抜けて感動の出来だったのはこの人、外神田をこよなく愛する詳細不明のねこちゃん、外神田deepspace。びっくりするくらい透き通った音を響かせてくれるフィールドレコーディング/アンビエント・ハウス作品に仕上がっている。水の音や鳥の声が優しく聴き手を迎え、彩豊かな音色と飽和するほどに飛び交うアンビエンスの波は流麗かつヒプノティック。やっぱりハウスを作る人のアンビエントっていいよね。

f:id:Natsuyasai:20161215071218p:plain

36. Gianluca Becuzzi - "Faraway From Light" (Luce Sia)

音響テクノをアンビエント寄りにしたような質感。厚みのある持続音と残響音の素晴らしさはLetheに比肩するレベル。Current 93やHermann Nitsch、NWWをネタに使ったり、Fabio Orsiとも組んでいたイタリアのエレクトロアコースティック作家で八十年代から活動しているらしい。フリージャズの如く熱量の感じられるエレクトロニクスさばきは強烈で肉体的にも感じられる。虚無感を演出する意匠にも意気込みを覚える強烈な一作。

f:id:Natsuyasai:20161215073302j:plain

35. Joachim Nordwall - "The Message Is Very Simple" (Entr'acte)

メディテーションズのレビューに「LSDによる意識の自由を訴えたティモシー・リアリーによる“The message is very simple; think for yourself and question authority”というメッセージを、マントラのように使った大傑作。」とある。そう捉えると、強烈な印象を与えられるけれども、中身は至ってシンプルな正統派ミュージック・コンクレートで、本のページを捲るような物音、何種類かの虫の声、土台となる持続音以外に展開を彩るものは少なく、非常にミニマムでムダが無い。後半のダブ処理されたような重みのあるサイケな感覚も秀逸。非常に「アンビエント」的と言えるであろう、Entr'acte屈指の大作である。

f:id:Natsuyasai:20161222072956p:plain

34. Kazuya Ishigami - "cleaner 583" (スローダウン RECORDS)

京都が誇る実験音楽レコードショップ、パララックス・レコードの森さんが始動させたスローダウン Recordsからドロップされた作品群(Yves De MeyやM.B.など)のうちの一つ。これは今年聞いた音響モノの中でも限りなく鋭利なテクスチャーを発揮している。ただただ「無」に徹するミニマムな音響空間に徐々に恍惚の渦が広がっていく。時折、入り交じる微かなノイズの演出が素晴らしい。ヒプノティックかつドープなミュージックコンクレート。まさに物思いに沈む季節に捧げられた音楽。

f:id:Natsuyasai:20161215070503p:plain

33. Equiknoxx - "Bird Sound Power" (DDS)

今年来日を果たした上に見に行けなかった新機軸のジャマイカン・ダンスホール。リリースはデムダイク・ステア(Modern Love)のDDSから。言うまでもなく持ち前の鮮烈なリズム感は圧倒的で、ビートに弱い人でもこの独特な進行には気圧されるだろう。完壁に処理された素材が配合され、徹底的に音のスキマを排除し、計算され尽くした奇怪な音響が広がるのは見事としか言いようがない。また再プレスされたらしいので未聴の人は絶対ゲットしましょう。

f:id:Natsuyasai:20161215072132p:plain

32. GAIKA - "SPAGHETTO" (Warp Records)

WarpがLorenzo Senniをフックしたことは今年大きな話題を呼んだ。HyperdubやPlanet Muが向かおうとするステージへと足並みを揃えるつもりなんだろうか、Warpもまた、ロンドンよりは、Mixpakでも活躍する気鋭のラッパーへと焦点を当ててきた。一体、どんなバックグラウンドが彼を産み落としたのだろうか。散切り頭でヘッドロックを掛ける。恐怖を煽るインダストリアル・ノイズとダンスホールが息づく彼のトラックも深淵から鳴っている。歪さを隠すことのない真摯な瞳でゲットーから届けに来る核弾頭が金を持て余し斜に構える連中の表情を阿鼻叫喚に変えること請け合いなし。

f:id:Natsuyasai:20161215072310p:plain

31. downy - 第六作品集『無題』 (felicity)

厨二心を煽られる叙情的な展開が強烈な名バンドが帰ってきた!一曲目、冒頭から繰り返されるリフレインで既にハートを射抜かれてしまいました。downyは昔から好きだけど、まさか高校の頃以上に、こんなに薄気味悪く歪な音色が沁みるとは。ブラックメタルが背後にあるのかとでも思わされるようなドゥーミーなサウンドとエクスタシー抑えきれない黄泉の恍惚の響きとゾクゾクさせられる残響音。若者ならば、これを聞かずしてカタルシスは得られないだろう。

f:id:Natsuyasai:20170203211636j:plain

30. 未来: Ergo - "再オープンの都市" (蒸発音)

「未来永劫」と読めばいいのだろうか、そしてなんとも目に眩しいアートワーク。初音ミクのような少女が描かれているが、ボーカロイドらしき歌声が登場する訳では無い。SeikomartやPizzabox Societyなんかにも在籍する新鋭作家。ヴェイパー関連の作品では、今年最後に出会った良作で、外を歩く時は最近これをずっと聴いてる。よくあるHypnagogicなヴェイパーの類ではあるが、深い夜の暖かみ溢れるムード感に強い愛を感じる。葛谷葉子の"恋"と竹内まりやの"Summer Vacation"をスクリューしたM-3"消えた"とM-4"壊れた"は至高の名曲に仕上がっているのでぜひ聴いて戴きたいところ。

f:id:Natsuyasai:20161215072524p:plain

29. Spencer Clark – "The Stimulated Australia" (Edicoes CN)

James Ferraroと共にThe Skatersを結成していたというだけで十分過ぎるインパクトを誇るこのシンセシストは昨冬来日を果たす。僕もその公演を見ることが出来たけれど、流麗という言葉がピッタリなそのシンセさばきは息を呑むほどに圧倒的で、神々しく光り輝き、本命だったLieven Mortens Moanaを超えていたように感じた。アルバムもまた強烈でした。「いつか頑張らなきゃならない日が来るから今はゆっくり休んでね」と言うように一日の疲れを洗い流す。世界の海洋から集めたという音響素材をもとに組み立てられたフィールドレコーディングと安らかに添えられたシンセの音色、霊的な響きはこの世のモノじゃないように刺さり、驚嘆するものだった。寡作な彼なのだが、リアルタイムで聞くことが出来るのはとても光栄だ。

f:id:Natsuyasai:20161215072554p:plain

28. Andrew Chalk - "Everyone Goes Home When The Sun Sets" (Faraway Press)

「夕焼け空 一緒に帰ろう」という邦題と淡いタッチのアートワークからして胸弾んだ一作!英国からはアンビエント・ドローンでおなじみの作家、アンドリュー・チョーク。ノスタルジックを肌で体感するようなみずみずしい音の葉が愛おしい。日々の生活で穢れた心にも寄り添う安らぎのひととき。ただただ深くへと沈んでいくだろう終の棲家の旋律。

f:id:Natsuyasai:20161215072630p:plain

27. Shapednoise - “Deafening Chaos Serenity” (Type)

「シンゴジラ」のオープニングと言われても違和感はしないんじゃないか。今年も来日を果たしている彼の新作はRabit(Triangle)とRoly Porter(Subtext)とのコラボレーション。これを一度超いいスピーカーで聞いたことがあってそりゃもう圧巻。映像作品が下敷きにあって音楽を添えているような臨場感で、これはベースミュージックとかいう枠では括りきれない。まさに現場仕様、ダンスフロアで鳴り響くとしたら絶対にヤバい。

f:id:Natsuyasai:20161223084815p:plain

26. MMMD - "Pèkisyon Funebri" (Antifrost)

君はMohammadを知っているか?これぞ、圧倒的静謐といったところである。AntifrostなるギリシアのレーベルやPANからも作品を発表している二人組(以前は三人組)の別名義による最新作。コントラバスを担当していたメンバーが抜け、オシレーターとチェロという編成。非常に限られたマテリアルだけども、音響空間を威圧感で満たすに足る重量感を生み出している。敢えて絞った音量ながら、非常に緊迫した空気感が場を支配し、全てを押し流すように破壊的な持続音が吹き荒れるダーク・アンビエント。もちろん今年はヘビロテしまくった。

f:id:Natsuyasai:20161215072728p:plain

25. Pan Sonic - "Atomin Paluu" (Blast First Petite)

Blackest Ever BlackとHospital Productionsに僕らが求めるサウンドを究極のクオリティで叶えてくれたパナソニックの最終作。現代的なダブテクノの感触とハードな暗黒重低音がたまらない恍惚としたベースライン、不穏な空気の循環が快楽中枢を刺激してやまない。トラック2のオールドスクール/M.B.風のガビガビ・ノイズも耳好い。長年おつかれさまと言いたいところです。ミカ・ヴァイニオは解散後もソロを出しているのでこれからも楽しみである。

f:id:Natsuyasai:20161230173340p:plain

24. テレヴァペ - "永" (PLUS100 Records)

賛否両論分かれるHKEのあの決断によって、Dream Catalogueのキュレーションがより先鋭的(?)なものへと向かって行き、オールドスクールなヴェイパーのファン達の期待の目は新興レーベルのPLUS100へと移ったのであった。その期待に応えるように今年はVaperrorや仮想夢プラザらの傑作の発表が相次ぎ、決定打と言えるのが、テレパシー能力者とVaperrorによるこのテレヴァペの二作目。Eyelinerやdeath's dynamic shroud.wmvに覚えた愛おしさに近いものを感じる。一言で言えば「慈愛」という言葉が似合うテレパシー能力者が彩るスピリチュアルな世界観と絶妙なリズム感覚を誇るVaperrorのセンスがこの上なく高次元で邂逅していて、最高にインドア(個人的にはアウトドア)感覚なアンビエントもの。「水生キス」とか「愛のビーム」とかネーミングセンスも健在。

f:id:Natsuyasai:20161215072812p:plain

23. ASUNA - "Tide Ripples" (Home Normal)

いたく沁みるウワモノ、精緻なフィンガーピッキングで魅せるアコースティックの旋律は空を舞う鳥のようにしなやかな刃で、それはまるで十月の乾いた空気のように残酷な立ち振る舞いで僕らの心を奪い去る。このアルバムに感じる季節感は人それぞれでいいと思うけど、僕は冬が深まる今日の日にこそ鋭く沁みるものを感じている。合計45分に渡って奏でる悠久の響きは今まさに心の奥へと溶け込んでいくようだ。

f:id:Natsuyasai:20161215073024p:plain

22. Ramzi - "Phobiza 'Dia' vol.1" (Total Stasis)

Elysia Cramptonの過去バンドキャンプ作品のデジタル化なんかも手がけているTotal Stasisからの自信作。アンビエント・ジャングルの主(と僕は形容する)カナダのモントリオール出身の女性アーティスト。ひとたび、レコードに針を落とせば、部屋の空気を潤うのが分かる。マイナスイオンが出てるのが分かるんです。清浄感心地好く、音楽自体もあまり聞いたことのないような感じで新鮮味が溢れる。今作もインディアンが奏でるようなフルートが挟まれたり、瞑想的な響きで心に沁みてくる。この人はやっぱりこの手のアーティストでも頭一つ出てる。今年はRVNGからもデビューも果たしたことだし、さらにメジャーになっていって欲しい。

f:id:Natsuyasai:20161222081816j:plain

21. Joyce Moreno - "Palavra e Som ~言葉と音~" (Rambling RECORDS)

たまには、MPB古典的なものだけではなく、最近のブラジルものを聞いてみようと手を伸ばしたのが、昨年も来日公演が話題になったブラジリアン・ミュージックの女王、ジョイス・モレーノの最新作である。(恥ずかしながら、彼女の作品に触れるのはこれが初めてで、以前の諸作とは比較出来ないんだけど。)まさに午後の上質な紅茶にほんのりとした空気が似合うプレミアムなサウンド。繊細なタッチと年齢を感じさせない芯のある歌声が情緒豊かなムードを生み出している。春の日が待ち遠しくなる所以です。

f:id:Natsuyasai:20161215073106p:plain

20. Mykki Blanco - “Mykki” (!K7)

Arcaをプロデュースしたことでも知られるトランスジェンダーの「才媛」、ミッキー・ブランコの最新作がこちら。小細工は無し、世間からそのセクシャリティによって紐付けされる不純な要素などちっとも感じもさせない、多種多様なビートを引き出しにした、ストレートかつエッジの効いたラップミュージック。彼女自身は自分自身の音楽をラップだとは思っていないようだが、男社会の権化とも言えるヒップホップのシーンにてこれほどの名声を手にしたことは彼女の溢れ出る解放的なアティテュードこそだろう。これから年輪を重ね、どう化けていくのかが非常に注目される稀代の作家だと僕は思う。

f:id:Natsuyasai:20161222074652p:plain

19. Huerco S - "QTT4" (Quiet Time)

上半期に傑作をリリースしたHuerco S.の始めたレーベルより、豪華装丁二本組カセット。今年、カセットという媒体で発表された最高の作品だと信じる。聴けば誰しも奥へ奥へとズブズブ引き込まれるだろう雑音ナシの瞑想アンビエント。最近、少し瞑想をする時間を取っていますが、姿勢を正してこの音楽を流していると、目を閉じて立ち現れるあらゆる邪念をありのままに受け止められるような気分になれます。当面の目標はB面の終わりまで瞑想すること。ちなみにA面B面とも同じ曲。そして、もう片方のカセットも同じ中身らしく一本は友人にあげなさいなとのこと。

f:id:Natsuyasai:20161222071419p:plain

18. 網守将平 - "SONASILE" (PROGRESSIVE FOrM)

日本音楽コンクールの作曲部門で第1位を受賞し、NHKの「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」にも出演しているという気鋭の作家。D/P/IからMark Fell、果ては最近のグライムなんかも吸収しているんじゃないかと思えるほど、先鋭的な感性に下支えされたソングライティングながらポップスとしての完成度も特筆すべきものがある。情報量が圧倒的過ぎて、一回や二回のリスニングではとても全貌を把握し切れない。とろけるような冷涼なメロディと予測困難なアレンジ、音色への美意識が感じられる万華鏡ポップス。これぞ、IDMエレクトロニカの地平にあると言うべきか、あっぱれなり……。

f:id:Natsuyasai:20161222073241j:plain

17. Larry Grenadier, Eric Harland Miklos Lukacs - Cimbalom Unlimited (BMC Records)

ん~、なんという華やかさだよ!ハンガリーの民族楽器であるというツィンバロムの奏者Miklos Lukacsとご存知のドラムス、Eric Harland、Brad MehldauBrian Bladeとの共演歴も誇るダブル・ベーシストのLarry Grenadierという強烈なメンツによるトリオ新録!クラシック音楽にインスパイアされているというハンガリー・フォーク・ミュージックの集大成がここにある。歴史・民族的にもアジアとの関わりが深いハンガリーの東洋的な弦楽のジャズの融合、非常に豊かなコントラストで彩られたエッセンシャル・ミュージック・ダイナミクス。圧巻である。

f:id:Natsuyasai:20161215073210p:plain

16. Gareth Dickson - "Orwell Court" (12k)

ガレス・ディックソンは「現代のニックドレイク」と称されるシンガー・ソングライター。以前ブログにも書いたので詳しくは書かないけれど、これもまた今年はリピートした作品の一つで町並み一つ一つに音楽が刻まれているもんだから馴染み深い。幽玄かつ暖かみのある澄んだ音響空間の中で紡がれるフィンガーピッキングが幼少時代の幸せな空気を彷彿とさせる。彼は昨年のヴァシュティ・バニヤンのライブでも見たけれど、あれからもう一年も経つもので時の移ろいを感じさせられる作品です。

f:id:Natsuyasai:20161215065557j:plain

15. Thomas Brinkmann -"A Certain Degree Of Stasis" (Frozen Reeds)

Editions MegoとFrozen Reedsから二作を同時期に発表したドイツのミニマリスト、トーマス・ブリンクマンの新作は後者のレーベルからリリースされた方の作品を深く気に入った。ドープな即興性を孕むエレクトロアコースティックで、持続音が送り届ける無形の美とディストーションの効いたギターの交錯は華麗だが、あまりにも変化の薄い強烈なまでのミニマリズムには圧倒される上にある種の狂気をも覚える。ともあれ今年の音響作品ではジャンルは違うものの、Tim Heckerの「Love Streams」に並ぶと思えるほどの傑作だ。

f:id:Natsuyasai:20161222080200p:plain

14. Powell - "Sports" (XL Recordings)

栄えある現代のポストパンク的インダストリアル・レーベル、Diagonalの主催者にしてスティーヴ・アルビニの下劣な祝福(愛と取りたい)を浴びたことでもおなじみPowellの新譜。今作は、Entr'acteでおなじみのDale CornishやPosh Isolationの創設者Loke Rahbek、そしてHTRKのJonnine Standishらが参加というかなり挑発的なメンツ。エッジの効いたジャンク・ミュージックでありつつも、洗練を経たからこそ作り上げられた世界観のようでもある。Delroy Edwardsの最新作「Hangin' at the Beach」にも通じるところがあるローファイ・インダストリアル・テクノ。こりゃいいよ。スターバックスの窓側の席で意識の高さをアピールしている医大生なんかが今こそ聴くべき音楽なんだよ。

f:id:Natsuyasai:20161215073333p:plain

13. Motion Graphics - "Motion Graphics" (Domino)

Maxmillion Dumberの一員であり、Co Laの盟友でもある新手のニューエイジ使いの最先端にいるのがこの男、Joe Williams。ダイナミックな色遣いで幻想郷を思わせる立体電子音響を完全に自分の手中に収め、洗練されたスタイリッシュな新世代のアンビエントを提供してくれる。痛快な程に耳快く心地好い音楽は呼吸を整え、自分の周りに新鮮な空気の循環を齎してくれる。今年一番お世話になったアルバムの一つだ。

f:id:Natsuyasai:20161215073500p:plain

12. Kiyoharu Kuwayama - "Coma Berenices" (Self-Released)

「お昼時だしちょっと音楽聴きたいね」なんていう友人の前で流したら、まさに離れていくだろう〝友達がいなくなる系〟の残響音フィールド・レコーディング。Letheでも有名な桑山さんの届けてくれる作品には全くハズレがない。マッチの音や大型エレベーターの駆動音といった面白い素材を精密に配置し、高度なレベルで完成しているミニマムなサウンドスケープ。部屋を暗くして上質なお香を炊きながら、姿勢を正して聴くのがこの音楽の鑑賞に見合っている。もちろん、一人でね。。。

f:id:Natsuyasai:20161215073626p:plain

11. Suzanne Kraft - "What You Get For Being Young" (Melody As Truth)

疲れた心の処方箋、語り手の繊細な表情の変化を見逃しちゃいけない。これは見事に心へと寄り添ってきた。西海岸からオランダへと移住した稀有な才能を持つ男は今年来日公演を果たしたばかりだ。PharaohsやOdd Numbersで培った夜に沁みる質感をアコースティックな音色へと移植することに成功している。瑞々しい、人柄が出ている音楽だと思う。音楽の方から人に歩み寄ってくるという類希なる無類のアンビエントがここにある。

f:id:Natsuyasai:20170203211931j:plain

10. tatsumi - "conceptuals | spring" (Self-Released)

何度リピートしたことか、SoundCloud中心に活動しているミネソタ拠点のtatsumiによるデビュー作。(僕の中での)2000年代のエレクトロニカと昨今のビートミュージックを解ってる人が作ってるんだなーという印象。あと日本も好きそうなところは、memory cardsにも通じるところがあって好感度三倍増し!こういうノスタルジックな音楽いつでもwelcomeな僕としては最高に沁みた2016年の音楽のひとつ。15分ちょっとというミニアルバムなサイズも良い。是非ともフィジカルリリースまで漕ぎ着けて欲しいテン年代後半における理想的ビートミュージック。

f:id:Natsuyasai:20161215073823p:plain

9. Gigi Masin - "Il silenzio dei tuoi passi" (13)

イタリアのアンビエント・マエストロとして昨今再評価が進んだGigi Masin、彼が今年最後に〈13〉から発表された作品。これは果てしなく孤独なる僕らの旅に寄り添う。孤独な路地裏を照らす街頭、人々の多くは今や独り。壁の向こうの桃源郷だとか、もはやそうした存在が無くなった今の時代、光も影も全て包み込む音楽の慈しみも、人々を救えないかもしれない。それでも、誠実に音楽と向き合い続け、そうした葛藤に抗うことを止めない彼の作品はそんな現状にも一抹の希望を抱かせる。深淵へと向かい染み込んでいくアンビエンスの輝きに包まれた、柔らかなピアノの音色は聴き手の安らぎを裏切ることは決してない。姿勢を正して、雑念を傍観し、真摯にこの音楽と向き合えば、必ず光は見えてくると僕は信じる。

f:id:Natsuyasai:20161215073954p:plain

8. トクマルシューゴ - "Toss" (P-VINE)

こりゃコーネリアスもステレオラヴも超えちゃったでしょう。lastfmの似ているアーティストを調べるとヴァシュティ・バニヤンやダーティ・プロジェクターズなんかが表示されるような、ポップミュージックの最先端をいく男が数年ぶりの新作を投下してくれたのである。一般人から明和電機(笑)、ディアフーフのグレッグ、トリプルファイヤーの鳥居真道、D.A.N.の小林うてな、元・森は生きているの谷口雄など様々なアーティストとコラボレーションして作り上げられた大傑作。おもちゃの楽隊のようなムードで奏でられる混沌としてトイフル、NHKの教育番組ばりの遊び心に溢れ、次々と転がり込んでくるイマジネーションの嵐は留まることを知らない。デザイン「あ」に比肩するであろう、この子供心の純真さは類希なる彼のセンスだからこそ産み落とされるもの。なんとも言えない豊かな感情が付き纏い、ついつい童心に返らされてしまう。目を赤くしてより長き生について考えているときなんかにこそ、深く耳を傾けてみてはいかがだろうか。

f:id:Natsuyasai:20161215074115p:plain

7. Blank Banshee - "MEGA" (Hologram Bay)

熱狂的なファン達を始め、多くの人がまだかまだかとホームページを見張っていたブランク・バンシーの最新作がまさに今ここにある。実に三年ぶりというべき作品にあたる。恐らく今年のバンドキャンプでは2814の最新作と並んで一番セールスを上げたアルバムなんじゃないだろうか。Lowな質感のジャケットと相反するようにRawな質感のサウンド・デザイン。Sci-fiな近未来感とヴェイパーの持つグルーヴを圧倒的なラインまで引き出したともいえるLeaving勢顔負けのビートのセンスが光っている。本当に素晴らしい。

f:id:Natsuyasai:20161215074256p:plain

6. G.H. - “Housebound Demigod” (Modern Love)

個人的にこういうのが聞きたかったのを叶えてくれたのはModern Loveからの最新ナンバー!Pendle Covenというユニット名義でも早くからModern Loveに顔を出していたGary Howellの久しぶりのソロ作品。息も詰まるようにヘヴィなエレクトロニクスと音響ノイズの心地好い交差が待ち受ける夢見がちなダーク・インダストリアル。Nurse With WoundやMuslimgauze、Autechre好きにもツボだろう。間違いなくスルメ。いやはや、何度も聞き返してしまう。

f:id:Natsuyasai:20161215074426p:plain

5. Supersize Me - "Slouching Towards Bethlehem"(Indienative)

大学入学直後に先輩から教わったこのテン年代インディの星は僕の音楽的価値観をひっくり返しに来てくれた。そして今もその威風堂々とした佇まいでキッズの心を魅了してやまない。ドローンからアンビエントミニマル・ミュージック、アシッド・フォーク、哲学・宗教史をもバックボーンに持つこの形容しがたい存在は、音楽の根源であるスピリチュアルな世界観へと立ち返る布石としてテン年代に現れた。暖かみと神々しさに溢れた音響の海へと沈んでいくサイケデリアの息吹が心地好い。形態すら問わない、彼らの真摯な姿勢とソレに見合った素晴らしい音楽は、間違いなく今日本で一番熱い。前作「Immanence」と並び、ジャパニーズ・インディの金字塔的スルメアルバムです。

f:id:Natsuyasai:20161215074506p:plain

4. The Caretaker - "Everywhere at the end of time" (Everywhere At The End Of Time)

突如、新作を発表した往年の電子音楽作家、The Caretaker。今後三年間で本作を含めて六作を発表するとのことでアンビエント好きを沸きに沸かせたポスト・モダン・クラシカル降霊会。古びたカセットテープの放つ微かなノイズ優しく、古き良き楽隊を引き連れた和やかなムード、宵闇の街を歩く暖かな家族、時代に祝福された美しい旋律ながらどこか闇を隠せない不穏さも内包した二面性のあるベッドルーム・チルアウトミュージック(チルアウトというには何か悪趣味でもある)。どこか常識を逸脱したエキセントリックな感性を備え持つケアテイカーだからこそ作り上げられた(ダーク)アンビエント傑作。今後の動向も楽しみでしかたない。

f:id:Natsuyasai:20161215074614p:plain

3. Jacob Collier - “In My Room” (Membran)

一人多重録音の圧倒的な完成度、スナーキー・パピーとの共演、あのパット・メセニーからの声援をも浴びているイギリスの青年は、今やユーチューバー・ドリームの最たる例とも言えるだろうか、いま一番共演したいアーティストはスティーヴィー・ワンダーという若干22歳のJacob Collierは今年初のフルアルバムを発表した!多くの人が言う通りこの人の作り出す音楽は展開から何からワケがわからないミュータント・ブルーアイドソウル。それでも形容になりそうにない気もするし、知人の言葉を借りれば「ハイエイタス・カイヨーテからジェイムス・ブレイクディアンジェロJ・ディラまでもが繋がっている」という圧倒的な音楽だ。洗練された音の粒一つ一つに宿る彼の息遣いはもはや神聖な領域にあるんじゃないかと思えるほどでこれからまだまだ伸びると考えると驚嘆する。自信を持って言える、彼は間違いなくスティーヴィーをも超えるだろう!EUREKA!!!!!

f:id:Natsuyasai:20161224025141j:plain

2. 宇多田ヒカル - "Fantôme" (Universal Music)

果たしてこれは「音楽」なんだろうかという疑問がまず頭に過ぎった。自分でも変なことを言うと思うが、ユーフォニアム第二期の神々しさに感じたように「これは音楽なのか?」というのがまず第一印象と言える。さてKOHHとも繋がってしまったぞ。しかし、中身は全く予測がつかなかった。この作品は至ってシンプルでストレートな表現をストイックに貫き、従来のようなエキゾティックで神聖なアプローチではなく、より生活感を前面に出した人間味のある空気感を発揮、2000年代以降の日本のポップミュージックの流れに寄り添い、あらゆる音楽リスナーが求める要素要素を徹底的に拾い上げ、限りなく高次元で結実したポップミュージックの奇跡。宇多田ファンの中では評価が二分されると思うし、僕も望んだものとは少し違うけれど、この作品は純粋に評価されるべきだと思う。

f:id:Natsuyasai:20161215072701p:plain

1. 青葉市子 - "マホロボシヤ" (Victor Entertainment)

年輪を増すように音楽もまたひとつ味わい深く沁みてくるのは彼女そのものだけでなく僕自身ももう少年ではないからだろう。蒼く優しく響くクラシック・ギター一本を手に彼女は神々しさを身に纏い、移ろいゆく時の流れというそよ風を浴びながら、全ての聴き手の魂と共にある。彼は家に招いた客にお茶を出すだけで庭の狐や狸を追いかけているだけなのだが、来客はまるで常に彼からの誠意を感じているそうで、その人は真の意味で世界から自由なのだという話を聞いたことがある。そして、ただただ空気を震わせ、ギターを弾き語るだけのハズの彼女のこの歌にも同様に果てのない自由が広がっているように感じられるようだ。歌を綴っていく彼女の全てはもはや彼女ひとりの中では完結しないほど、聴き手の心ひとつでは収まりきらないほど大きな意志を帯びている。今一度僕は自分を構築してきた全てのものに感謝出来るだろう。ソレほど、この出会いは大きかったように思う。坂の途中にいる僕自身が歩みを止めさえしなければ、これからもきっとこうした輝きの瞬間は続いていくハズだから。