Hany Mehanna - The Miracles Of The Seven Dances

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昨年も、Abdou El Omariの記事で取り上げたベルギーのDJクルーによる気鋭レーベルRadio Martikoからは、エジプトで最も高名なオーケストラの一つであるというAhmed Fouad Hassan’s Al Massiya Orchestra(The Diamond Orchestra)のオルガニスト、ハニー・メハナが1973年に同じくエジプトのレーベル、Sout El Hobから発表していたアルバムが実に45年ぶりにリイシューされました。

ハニー・メハナはアラブ世界で広く愛されているというマルチ奏者&作曲家で、アラブ世界の様々なアーティストや映画音楽に楽曲提供もしており、同国の歌手、アブドゥル・ハリム・ハーフェズやウム・クルスームと並んで今でも愛されているそうです。1977年には、レコードレーベル、Golden Cassette for Art Productionを設立しています(今は既にレーベルは亡く、カタログは同国のAlam El Phan Recordsが買い取ったそうです)。

1947年にエジプト北東部、ナイル川デルタに位置するシャルキーヤ県にて生誕。彼の活躍した世代では最良のキーボーディストの一人と考えられています。彼は、伝統的なベリー・ダンスの音楽を研究し、自身の音楽に取り込んでいます。イタリアで作曲を学んだあと、エジプトに戻って六十年代後半から彼の音楽キャリアが始まりました。

そして、前述したアラブ歌謡の女王、ウム・クルスームの楽曲"Leila el Hub"のキーボード・パートや、彼のカウンターパートとも言えるアブドゥル・ハリム・ハーフェズの有名な楽曲"Qariaty el Fingian"にも参加しています。

そのモダンな演奏スタイルは、 Sublime Frequenciesからも再発されている同国のギタリストで、彼の友人のオマール・ホルシードや様々な共演者に多大な影響を与えました。七十年代中盤からは、エジプトの映画製作の為に様々なサウンドトラックを制作し、その活動は現在も続いています。

ハニー・メハナの最良の作品たちはこれらの時代に存在しており、バイオリニストのハモウダ・アリと制作したアルバム「Princess of Cairo: music for belly dance with Nagwa Fouad」は、有名なベリー・ダンサー、ナグワ・フォワードの進化の基盤とされており、そして、本作「The Miracles Of The Seven Dances」は"音楽家の芸術によって到達された最高レベルの作品"と評されているようです。

壮麗なミュージシャンとしてのハニー・メハナは年月を経てビジネスマンへと変容。彼は、Golden Cassette for Art Productionというレーベルを設立し、こんにち有名なチュニジアの歌手、Zekraや88年にハニー・メハナと結婚することになるモロッコのポップ・シンガー、サミラ・ベンサイード(1994年に離婚)などを世に送り出しています。

2013年5月には、エジプトの音楽シーンで著名な人物として、同国の労働組合連合会会長に選出。2014年には、政府系ファンドの資金を違法流用し、五年間の服役を宣告されていますが、示談により、六か月のみの服役となりました。というのは要らない話か。笑

さて、お気づきでしょうが、ジャケから察するにして、既に辺境サイケオーラがぷんぷんと匂っていますが、まさにその通りの音楽。エジプトの伝統的なリズムと欧米のサイケやジャズ・ファンクといったモダンなサウンドを混ぜ合わせた独自色豊かな音楽。日本人耳にはエクスペリメンタルに聞こえてくるオルガンの即興演奏とグルーヴィーなギター、ヒプノティックなストリングス、酩酊するパーカッションの掛け合わせで非常にサイケデリックで奇想天外な世界観を編み出しています。土着的なグルーヴを骨に制作されていますが、その音楽は至って都会的に洗練されていて非常に聞きやすいとも思えます。サイケ・ファンだけでなく、辺境プログレファンなんかにもリーチする音でしょうか。今年の再発の中でも有数の案件だと思うのであるうちに手に取ってみてください。

同レーベルから三枚も再発・編集盤が出ているモロッコのオルガン王者、Abdou El Omariや、ギリシャのTeranga Beatが再発したエチオピアのキーボーディスト、Yishak Banjawといった北アフリカ各地のオルガン・サイケに興味がある人にも是非。