未来の作曲家~Minsoo Changについて

僕は今まで、韓国人の友人を持ったことがありませんでした。韓国の話題になると、人を二分してしまうのが日本の風潮ですが、僕もソレに流されがちだった時期も正直言うとありました。周知のことですが、ネット上では、ヘイトから様々な陰謀論、そしてそのカウンターパートまでもが氾濫し、僕を含め、大体の人はよく分かっていないんじゃないかと思います。僕自身にも深層的に流れる差別や、韓国のダンスミュージック・カルチャーへの親しみを感じながらも、インターネットで出会った韓国人の友人がいます。

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その人の名をMinsoo Chang=장민수(チャン・ミンス)は1984年に韓国のプチョンで生まれ、インチョン市で学生時代を送りました。韓国で大学に進学し、一学期だけ勉強してから、作曲を学ぶためにヨーロッパへと向かいました。

ベルリンやカッセルなどの色んな街に住んだそうですが、今はオーストリアの都市グラーツに定着して、作品を発表したり、勉強したりしている現代音楽家です。

チャンとは、友人から紹介されてスカイプで話し始めました。ちょっとヘタですが、日本語も話せるという点(彼は三か国語を話します)でも最初は驚きましたが、僕自身関心のある、現代音楽やクラシックに対する造詣の深さや彼の親しみやすいキャラクターのおかげで、今では頻繁に連絡を取り合う仲です。

大人しくもフレンドリーで誠実なチャンですが、そんな彼にも悩みがあり、それなりに長いキャリアながら〝売れない〟ということをよく話してきます(笑) 現代音楽家なら誰もが憧れる名レーベル、WERGOやEdition RZ、NEOSやKairosから出したいとよく愚痴を吐きます。決して、楽曲が劣る訳ではないですが、いい意味でも悪い意味でも欲がなく、プロモーション下手なチャン・ミンス

ということで個人的に応援している彼の楽曲を紹介したいと思います。

"Sonata I"はまず音程を決め、それを変形させながら伝統的なテマティックな方法で書かれた曲。これは彼が19歳の時に書いたピアノ・ソナタです。彼の曲は、彼の敬愛するルイジ・ノーノと同様情熱的で、ドラマティックに展開していきます。不安定な軌道を描いて、ひたすら闇に沈むように慟哭する。大地を揺らすように鍵盤を踏み、鍵盤を殴るかのようにして演奏する初期衝動溢れた演出は聴く人の耳に焼き付くでしょう。

"Die Taten" はシンプルに演奏家の動きによる音を使って書かれています。演奏者の「行為」のみを描写した曲で、特定の音程やリズムなどは存在していません。ギターやハーモニカ、クラリネット、バイオリンなどが用いられ、他にも鳥の声やガラス瓶の中にいろんなものを入れてシェイクしたりと、ユニークな表現手法が試行錯誤されています。非常に動きの少ない音楽ですが、ごくごく稀の一瞬の躍動がミステリアスな瞬間を届けており、聴き手は常に集中せざるを得ません。ムダ一つ存在しない耽美な曲で僕も個人的に好み。ちなみに一番楽譜通り演奏されているとのことで愛着があるそうです。

ライブ録音のこの曲、"...was kontinuierliches... "は最初に基準音があって、その長さで出来るだけ全てのリズムを組み合わせて、休憩無しのまま最後まで曲が進んでいく。ピアノやクラリネット、チェロやフルートなどが用いられたアンサンブル曲で、デレク・ベイリー以降のフリー・インプロヴィゼーションとも言えるような熱量ある演出と冷涼なドローンのような密度の濃い音楽を行き来し、「動」と「静」の間を情緒豊かに表現しています。個人的に僕は彼の曲の中では一番これが好きです。


"Ein Ausschnitt der Beeinflussungen"は、最初はアンサンブルのために作られた曲だったそうですが、こちらはピアノでの録音。しかし、この曲は、元々携帯を使うインタラクティブを考えた曲であり、それが無いとただ70%の情報量しか出すことが出来ません。この曲には愛着があるそうで、元々オーケストラ・バージョンもありますが、まだ上演がされていないことを悔やんで、ピアノで録音して公開しています。

やはり、彼の音楽には「間」と「引きの美」がふんだんに息づいています。幽玄なピアノの独奏は非常に病んだ響きを生み出しており、凍てついた風景や退廃的な芸術を想起させます。それでいて根底的には情熱的なものが流れていると感じられるのが、彼らしいというか何というか。

人生の中で疾患し得る全ての精神病を学んだというチャンは、一人の人生を加齢によって統合し(ここは大きなフォームとなっている)、インタラクティブに、ある一つの社会として象徴し、メタとして描いた。それは実にパーソナルなものであると言えるでしょう。

 

チャンは他にも数十曲のスコアを擁していますが、(主に金銭的な問題で・・・)まだ録音されていなかったりと、まだまだこれから。しかし、彼には〝音楽史に名を残したい〟という野望があり、不器用ながらも頑張っているのを日々感じます。友人としての依怙贔屓ではなく、純粋な一人の彼のファンとして応援したいものです。よしなに!