Larry Chernicoff - Gallery of Air

一聴してジョン・ハッセルの提唱した第四世界の風景が眼前に広がります。崇高にして瞑想的なサウンドに包まれることになるでしょう。

Chee Shimizu氏の名著「Obscure Sound」やOptimo Musicから発表された第四世界にタグ付けられる音楽を集めた画期的なコンピレーション・アルバム、「Miracle Steps: Music From the Fourth World 1983-2017」、RAの記事「21世紀における第四世界」でもこの作品やアーティストの名前を目にしていた人がいるかもしれません。本作は1983年にアメリカのMuse/Art RecordsよりLPとして発表されたコンテンポラリー・ジャズの隠れた名盤で、初期のトライバルなジャズ・フュージョンとレトロ・シンセサイザーのテクスチャーを融合させた古典とみなされることもある作品です。この作品のオリジナル盤はマーケットプレイスでは常に万越えの高価格で取引されているような貴重な一枚としても知られています。それがこの度、オレゴン州ポートランドを拠点にディストリビューションも展開する新鋭レーベルのIncidental Musicより初のリイシューが為されることになりました。こちらは、AKI TSUYUKOさんの作品も取り扱っていたり、VANGELIS KATSOULISの「THE SLIPPING BEAUTY」やSVEND UNDSETHの「WINDSHAVE」といったニューエイジアンビエントを基調にしたヴィンテージのレアなヴァイナルも売っていたりと非常に気になるレーベル。個人的にこの作品はオリジナルで買いたいなと思っていたタイミングで再発されたので非常に運が良いと思う次第です。

Larry Chernicoff - composer, producer, vibraphone, piano, percussion
Don Davis - saxophones
Tim Moran - saxophones
Sonam Targee - trumpet, bamboo trumpet
Tony Vacca - percussion
Stephen Walt - bassoon

独学で音楽を学んだニューヨーク出身のヴィブラフォン奏者/ピアニストであるラリー・チェルニコフの初リーダー作。 オーネット・コールマンらによって設立されたコンテンポラリー・ミュージックの研究機関、Creative Music Studioで働き、教えていたというチェルニコフは、1970年代中ごろにはニューヨーク・ウッドストックのダンス劇団のために曲を書いていたという経歴もあります。

これほど没入度の高い音楽も稀かなと。僕自身、イントロの時点で「第四世界」という言葉が真っ先に浮かんできたようにこの音楽を形容する上でジョン・ハッセルという言葉がしっくり来るのですが、前述のRAの記事に載っている彼のインタビューによると、「Chernicoffは、自身の音楽はFourth Worldのコンセプトに当てはまるとは思っていないそう。むしろ、彼はHassellの音楽を聴いたことがないということです。しかし、『Miracle Steps』に自身の曲が収録されたことは光栄だと語る。」とあり、寧ろ、彼が師事していたドン・チェリーから多大な影響を受けているようで、彼の音楽もチェリーと同様にフリージャズとガムランが融合しています。加えて、ラーガのきわめて重要な表現プロセスの一つである「アーラープ」やインドネシアガムラン、ドイツでフリージャズを演奏に費やした時間もこの作品が作られた上で重要な要素となったみたいです。

トランスの域に達したロング・フォームな演奏、独特の光沢の香るサックスの響きとシンセサイザーのテクスチャー、あまりにも多国籍な楽器の数々。スピリチュアル・ジャズとアフリカ音楽、ミニマル・ミュージックなどが融合した、極めて独創的な響きは特定の時代の時代には属さないような孤高の領域に踏み込んでいます。スピリチュアルかつ陶酔感溢れる演奏はあまりにも高エネルギーで、緊迫感をを醸していますが、根っこはピースフルで、そこがいいなとも思います。金が無いので僕はデジタルで買いましたが、レコードの音の厚みで聞きたいなとも思える一枚です。今のところ、ちょっと高いですが国内だとロハコで買えるみたいですね。レーベル直の方が安いかも?