Robert Haigh - Creatures of the Deep

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エクスペリメンタルを掘っていれば、行き着くのは当然のはずながら、なかなか理解するチャンスに恵まれず、Sunn O)))とのコラボ盤は持っていながらも、Nurse With Woundにハマったのは昨年からのことでした。それからファースト、セカンド、サードと買い集め、十何枚か聞き現在に至ります。その過程でアンドリュー・チョークの立ち位置も再確認したし、Christoph HeemanやH.N.A.S.も知ることが出来ました。とはいえ、知識面は平山さんの書いた「Missing Sence」によるところが非常に大きいです(感謝)。

さて、その文脈で当然名前を目にすることとなった英国の作曲家、Robert Haigh(ロバート・ヘイ)、オックスフォードのヴァージンレコードで働いていた際、常連だったNWWのステイプルトンに買われ、彼らのUnited Dairiesから作品を発表しています。学校では、"Labyrinth"というバンドを組んで、David BowieRoxy Musicに影響を受けたオリジナル楽曲を演奏し、八十年代初期にはRobert Haigh and Semaの名義で「Three Seasons Only」や「Notes From Underground」といったエクスペリメンタル・アンビエントのアルバム・シリーズを発表。彼はまた、NWWのいくつかのプロジェクトに寄与しており、This Heatに参加することとなるTrefor Goronwyとはインダストリアル・アヴァンファンク・バンド、The Truth Clubを組んでいました。

本作は、ピアノ演奏によるアンビエント・ミュージック。 Sirenレーベルからの彼のアルバムの軌跡に続くように、ハロルド・バッドエリック・サティの音楽が邂逅したような美しき地下空間が形成されていくようなアンビエント・クラシカル絵巻。その音楽の影響元は、老舗メディアである"The Wire"によると、Pere UbuThe Pop Group、Can, Faust、Neu!Miles DavisKing Tubbyとかなり多岐に渡ります。彼は、United DairiesでのSEMAとしてのアヴァンギャルドな作品から、 Moving Shadowとサインした"アンビエントドラムンベース"の伝説として知られるOmni Trioまで、非常に幅広い音楽を手掛けてきました。そんな彼が現代のアンビエント~ミニマル名門ながらアヴァンギャルドにも理解のある、Unseen Worldsから作品を発表するのも分からなくもないと思います。

枯葉の季節、独り感傷に浸るような影のあるサウンド。しかし、必要以上に不穏で、冷たいメロディは聞き手を逆なでします。凡百のモダン・クラシカルと違うのは、フリーキーでオルタナティヴな音楽の幻影に憑り付かれた彼のバックボーンにあるもの故でしょうか。アンビエントというには切なすぎる音世界。変遷しない悲しみと哀愁の旋律が心に痛く沁み込み、胸を締め付けるかのようです。ジュリアス・イーストマンからウィリアム・バシンスキー、ペンデレツキも手掛ける名技師、Denis Blackhamがマスタリングしているのも大きいのか、非常にぼんやりとしながらも、相反するクリアな音像が描かれています。Siren Recordsからの諸作ほどとはいかないまでも、今年の下半期に発表された作品の中では有数の完成度じゃないでしょうか。僕はかなり好きです。