Robert ÆOLUS Myers - Talisman (Origin Peoples)

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ホノルル発のブログ/レーベルであり、知られざるハワイの当地の音楽を世界へと発信してきたAloha Got Soul。同レーベルによって、2017年に発表されている二枚組LPのコンピレーション「A Retrospective」のリリース以来、再評価が進んでいる同地のハワイの作曲家、アレンジャー、マルチ奏者、プロデューサーで、現在、ポートランドにその拠点を置いているRobert ÆOLUS Myers。80年代から90年代初頭に及ぶ、ハワイのニューエイジ・ミュージックのムーブメントの重要人物とされています。70年代から活動を始め、80年代には、カセットやCDで4枚のニューエイジ作品を残していますが、現在、どの作品も入手困難です。90年代半ばからは、音楽から深層心理学へとフィールドを移し、個人開業した心理療法士としても精神医療を提供しています。

かつてハワイで興隆した前衛パフォーマンス・アートやダンス・シーンでもコーナーストーン的な構成員として活躍。自身のソロ作品のプレミア時以外の公演では、ミュージシャンやダンサーをキャストしており、コンテンポラリーかつ実験的な演劇のプレゼンを伴っていました。Valerie Bergman Dance Company(異年齢混合のモダン・ダンス・カンパニーであるRainbow Dance Theatreの前身)の音楽監督であった故Earnest Morganとも共演した経歴があり、また、Iona Contemporary Dance Theatreのダンサー/振付け師であるCheryl Flahartyともコラボレーションしています。そして、日本と中国の血を引いている香港拠点のホノルル出身のミュージシャン、Nelson Hiu(Jon RoseやGround Zeroの作品にも参加)とAta Takにも作品を残すホノルルのネオ・エキゾチカ集団、Don Tikiの一員でもあるKit Ebersbachとのプロダクションを上演し、ハワイ出身のチェリスト/オートハープ奏者であるBob Kindlerともツアーを行なっています。

また、ハワイアン・チェーン全域だけではなく、西海岸を超えて、ニューヨークやスペインでもパフォーマンスを行っていたそうです。イスラム神秘主義教団である”Sufi Order International”(現在の”Inayati Order”)を主導したPir Vilayat Inayat Khanからは、1978年に、ギリシア神話に登場する三人の人物にちなんだ「風の番人」を意味する"Aeolus"(アイオロス)の名を授かっています。Myers氏は、バスーン奏者としての鍛錬を積んできた人物でもあり、ホノルル交響楽団やハワイ交響楽団などを始めとした様々なハワイのアンサンブルやオーケストラで演奏してきました。また、彼は、ハワイの非営利教育機関である"Volcano Arts Center"からも招聘されるアーティストでした。彼は長年に渡り、フェスティバルやハワイ大学の学部でモダン・ダンスのインストラクターと仕事をしてきたプロのダンス伴奏者であり、ハワイ大学で民俗音楽学の学士号を取得しています。彼は、アジアやアフリカ、アラビアなどの音楽を影響下に、電子楽器とハワイの伝統楽器を融合させた最初の人物としても知られており、フルートやシンセサイザー、パーカッションなど用いて、トライバル/エスニックな音風景そのままに、西洋のクラシック音楽の形式を駆使した刺激的なサウンドスケープを追求してきました。影響を受けたアーティストとしては、StravinskyDebussyPhilip Glass、Laurie Anderson、Patrick O'Hearn、John MclaughlinPat Methenyなどの名前を挙げています。

そして、伝説的ニューエイジ作家、Paul Hornの主宰するGolden Flute Records(1982年設立)のサブレーベル、Global Pacific Records(Jordan De La SierraやDo'Ahも作品をリリースしている)のオリジナル・レコーディング・アーティストの一人で、同レーベルの元で「Aeolian Melodies」(1984年)と「Rays」(1985年)の二枚のアルバムをリリース。その後、自主レーベルのDragon Productionsから「The Magician」(1989年)と「High Priestess 」(2006年)の二作を発表。彼は様々なアルバムにゲスト・アーティストとして参加し、Gerardo MazaやPaul Greaver、Bob Kindlerなどと共作、彼の音楽は数十にも渡るビデオ・プロジェクトで紹介されています。そして、スペインのセビリアで92年に開催された万国博覧会でも演奏した経歴があり、New Music Across America(1979年から1990年までアメリカで開催されていた実験音楽/現代音楽のフェスティバル「New Music America」が1992年に一度復活した時の名前)のコンサート・シリーズにもフィーチャーされています。1997年にいったんライブ・パフォーマンスを終え、ポートランドに移り住んでいます。(また、この頃から心理療法士へと携わり始めたと思われます。)

Myers氏は、40年以上に渡って「祈りの音楽」へと参加してきました。ハーモニウムを演奏し、自己実現サービスのためにパラマハンサ・ヨガナンダ(インド生まれのヨガの聖人)によって書かれた「Cosmic Chants」を歌い、”Mevlevi Turn”のためにフルートやパーカッションを演奏し、そして、スーフィーの一派であるメヴレヴィー教団のシャイフであるYakzan Hugo Valdezが主導した”Dances of Universal Peace(DUP)“のインナーサークル・ミュージシャンを長年務めていました。また、長年に渡って、神秘主義の学者/学生であり、カリフォルニア・サマーランドの大学院「パシフィカ・グラデュエイト・インスティテュート」にてカウンセリング心理学の学位を取得しています。

この度、Jeremy Grant主宰の米国のレーベル、Origin Peoplesから、同氏による80年代初頭の未発表楽曲やライブ音源、リミックス収録した未発表作品集が2枚組LPでリリース。製作には実に2年が費やされたという大作です。Inverted Audioによると、Jan SchulteやYoung Marcoのレコードバッグの中身から飛び出してくるような音楽といった風な形容がなされているのも頷けますが、今作では、RVNGの編集盤でも知られるアンビエント作家K. Leimerや、Edições Cnを主宰するベルギーのフィールド・レコーディング作家Lieven Martens Moana、Suzanne KraftことDiego Herreraも参加していたLAのグループPharaohsなどといった豪華陣容によるエディットやリミックスを収録しており、単なるニューエイジ作品では終わらないバラエティ豊かな内容へと仕上がっています。2017年の編集盤まで、ハワイの外ではあまり知られてこなかった作家ではありますが、上記の通り、長年に渡る精神的/心理学的探求、そして、クラシック、民族音楽への造詣などから、孤高の深度へと達したアンビエント/ニューエイジ作品を残しており、埋もれさせておくには勿体無さ過ぎる楽曲の数々です。また、4組のアーティストによるエディットやリミックス曲も大変秀逸で、特にラスト曲のLieven Martens Moanaによるリミックスは実に16分とアルバムの最後に相応しい大曲なのですが、フィルレコやミュージック・コンクレート、ドローンなどを織り交ぜてかなり独特な世界観で解釈されていて非常にユニークです。

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