柴野さつき(Satsuki Shibano)「エリック・サティ(Erik Satie)」(1984)

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「聴く」は心理学的行為であり「聞く」は生理学的現象である(ロラン・バルト)。本作品のライナーの冒頭を飾る言葉です。また、帯には「『環境的』音楽としての『小絵画集』26曲 - レコードにエリック・サティをデッサンすること」とも書かれています。

最近は、ニューエイジリバイバル熱が極限に達するなか、盟友・尾島由郎氏と共同参加のもと、新世代ニューエイジ・ミュージックの騎手、Visible Cloaksとコラボレーション作品を名門レーベル、RVNGから発表したことで話題にもなりました。

柴野さつき氏は、エリック・サティを始めとする近代/現代ピアノ音楽のスペシャリスト。5歳からピアノを始め、東京音楽大学演奏家コース・ピアノ科卒業、79年に渡仏し、サティ演奏と研究の第一人者であった故・J.J.バルビエ氏に師事。帰国後は、サティ作品を演奏したCDを発表、現代音楽を中心に演奏し、コンサート活動を行っています。

本作は、吉村弘や広瀬豊とも並ぶ日本の環境音楽/アンビエント・ミュージックの草分け的存在である芦川聡によって設立されたSound Process(株式会社サウンド・プロセス・デザイン)から84年にリリースされた作品であり、同レーベルが展開してきた「波の記譜法(=Wave Notation)」シリーズの第3弾に当たります。

エリック・サティと言えば、現在の環境音楽アンビエント・ミュージックの源流でもある「家具の音楽」を発明したことでも知られています。ライナーによると、エリック・サティを素材に取り上げ、「レコードとして」再構成するというもので、サティの全生涯の作品からレコード1枚の時間分を幾つかの基準で選曲し、それらをアルファベット順に配列されています。「完結された言表はすべてイデオロギー的となる危険をはらむ」ため、本作では、レコードのなかで音楽自身において完結することを「避ける」ことが意図されており、「家具の音楽」を紹介するのではなく、「家具の音楽」の概念を持つに至った作曲家の作品にはその概念の要素が含まれているはずだという期待をもとに制作されています。1つの単位(フレーズ等)があって、それを繰り返すのではなく、まずレコード1枚の時間があり、そこにサティをつめ込んでいるのです。

柴野さつき氏は、「家具の音楽」のコンセプトそのものを自身の作品へと掲げるのではなく、その「家具の音楽」の要素をサティの音楽の中から照らし出すことを("環境音楽"というものに対峙しつつも)音楽を「聴く」リスナー側の能動性へと委ねています。僕はわりと作り手の意図が明確に示されている作品に触れるのは好きな方ですが、この音楽には並々ならぬ発見が多々あるように感じました。日本で独自の進化を遂げた環境音楽とフランス発祥の『家具の音楽』の文脈が奇跡的な一致を見た一枚を是非「聴いて」みてください。

※オマケ 幻のカセット版(discogsにも載ってません)

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