Second half of 2018 : Best Music Of 50 下半期ベスト

今年も年間ベスト、下半期ベストの季節がやって参りました。もう平成は終わるとのことですが、平成生まれの僕がこの年を何かピリオドに出来たかというとイマイチな答えしか出ないようではありますが、少しは成長出来たんじゃないでしょうか。さて、今回は上半期は30枚でしたが、例年の各期ベスト通り50枚ということになっています。上半期がノイズとアンビエントにフォーカスしたような感じになっていますが、今回も同様のジャンルのエクペリメンタル系を中心にちょっと近い盤選になっているかも。ただ一位は意外に感じられると思います。今回も1レーベルにつき1作品まで。もちろん今年7月から12月までにリリースされた作品で統一されています。楽しんでお読みいただければ幸いです。

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50. Matteo Nasini『Sparkling Matter』(Yard Press)

BANDCAMP

ジャケットからして素晴らしすぎませんか。1番初めに置いたのは記事のトプ画映えがするからです。ローマの美術家、マテオ・ナシーニによる新作。眠る人の脳波を14の電極を使ってそれぞれ独立した信号を変換ソフトウェアに送り、音に変換するコンサート「Sparking Matter」に基づくドキュメント作品とのことです。深い森の奥へ奥へと迷い込んでいくような、まさに夢見心地のアンビエント・クラシカルといった感じで、没入感たっぷりのサウンド。淡麗なタッチでとにかく気持ちいい音がユラユラ~と揺蕩う素敵な音楽。眠っている時にこんな美しい脳波が僕からも出てるんでしょうかね。

 

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49. Renick Bell『Turning Points』(SEAGRAVE)

BANDCAMP / SPOTIFY / APPLE MUSIC 

東京を拠点に活動し、コンピューター・ミュージシャン、プログラマー、そして教師という側面を持つプロデューサー、Renick Bell。彼をLee Gambleのレーベル、UIQからのリリースでその存在を知ってから、尖端サウンドの権化のようなその刺激的な作風に魅了され続けて来ましたが、今作は個人的にも彼のベストワークに挙げたい作品。なんといっても、骨太の電子ビートを主軸に続々と多種多様なサンプル音が炸裂する様子は圧巻。最先端の音楽に触れたい思いがある人には真っ先に薦めたい1作です。RKSSにしろ、Broshudaにしろ、やっぱり、Seagraveのリリースは見逃せないですね。

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48. Maoupa Mazzocchetti『Gag Flag』(Editions Gravats) 

BANDCAMP

鬼才中の鬼才、Low Jack主宰のEditions Gravats。ここも全く外さないレーベルですが、MannequinやUnknown Preceptsなどからのどのリリースも個人的に好みどストライクのベルギーのMaoupa Mazzocchettiがここから2年ぶりのフルアルバムを!この人も現行エクスペリメンタルとインダストリアル・テクノの見事な折衷を重ねた個性的な作品を出してましたが、今作は前作を遥かに超えましたね。ドラスティックに歪む変態的なボーカルワークと、ボディ・ミュージックばりに強烈なビートを以って奇妙奇天烈なインダストリアル・サウンドを繰り広げ、予測不可能の場所へと向かう。帰るべき場所すらもはや想定外の音。ミュータント・テクノも行くところまで行ってしまった境地と言うべき作品。油断すると呑み込まれるような異様なサウンドの数々にはただ圧倒されるばかりです。

47. Rudolf Eb.er 『Om Kult : Ritual Practice of Conscious Dying - Vol. I』 (Schimpfluch Associates)

BANDCAMP

「psycho-physical tests and trainings - 心理的身体的実験と探求」という命題を掲げるアウトサイダーアート集団、Schimpfluch-Gruppeの一員として活動、原子核学技術からブードゥー教儀式までに及ぶ作品を発表しているこのルドルフ・エバーは現在大阪を拠点に作品を発表(ライブはしていない)。オーディオ・ビジュアル・ムーブメントであるスイス・アクショニズムの重要な人物の一人です。ライブはしていないものの、コンスタントに作品を発表してくれる彼の新作はシリーズ作品となっていて、既に続編がリリースされています。腐食したフィルレコのノイズに、お決まりのように趣味の悪い効果音や物音が挿入され、1時間に渡って奇怪な音世界が淡々と織り成される脱臼ノイズ・エレクトロニクス傑作。この没入度溢れる音は瞑想にも向いているでしょう。

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46. BIZARRE UPROAR『VERIKIIMA』(Filth And Violence)

BANDCAMP / DISK UNION

今期はレア盤とかに金を使い過ぎたせいで、それほど多くはノイズ作品の新譜を聴けていなかったんですが、大御所の彼の新譜はやっぱりベストに入りました。今作はフィンランドを代表する老舗ノイズ・レーベル、Freak Animalと並ぶFILTH AND VIOLENCE(このビザール・アップローことPasi Markkulaが主催している)からのリリース。見事に好き者のツボを抑えた怒涛のパワー・エレクトロニクス。美しい花園を阿鼻叫喚地獄へと塗り替えるかのように、禍々しいハーシュ・ノイズが吹き荒れつつ、慟哭する破壊音が全てを蹂躙して回る、激激パワー・バイオレンスな一枚で、アトラックス・モルグのように退廃的であったり分裂症的でもなく、直球&力押しで収奪の限りを尽くす。硬派なノイズ。

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45. Magnétophonique『Une Cartographie Idéale』(Not Not Fun)

BANDCAMP / SPOTIFY / APPLE MUSIC

コラージュ・ミュージックの名手としても知られるフランスの作家、Les Hallesとはルームメイトであり、共同で今は亡き伝説的アンビエント・カセット・レーベル、Carpi Recordsを運営していたCharles BelpoisによるMagnétophoniqueの新発表カセット。今は遠し、懐かしい名前が新作を出すようだと思えばどうやら、2011年から2014年に録り貯めていた楽曲をリマスタリングして発表した作品とのことで、完全新録が聴ける訳ではないけれども、今はそのムーブメントは2015年をピークに後退してしまった地下エクスペリメンタル・カセット界の神秘的な空気を思い起こされせられる。水性のフィルレコ素材が心地好く沁み込み、淡々としたシンセ・サウンドが清らかな風と波を生み出す極上アンビエントニューエイジ作品。今年の秋にカセットで結構聴き込んだ一本です。

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44. Antoine Chessex『Subjectivation』(Fragment Factory/Rekem Records)

BANDCAMP

PANからのリリースでも人気のイタリアの作家Valerio Tricoliや元MetamkineのJérôme Noetingerなどとのコラボ作品でも知られるスイス出身のサウンド・アーティスト、Antoine Chessexによる最新作。Rekem RecordsとFragment Factoryによる共同リリース。2010年から2015年に渡ってサンフランシスコ、ベルリン、ロンドン、チューリッヒでのソロ・ライブ・パフォーマンス音源を用いて制作された作品。巨大な波が押し寄せるように圧巻の圧倒的ヘヴィ・ドゥーム・ノイズで幕を開ける、扇情的な怒涛のサウンドにはただただ吸い込まれるばかり。Cafe OTOでのパフォーマンスを基にしたB面もミニマルなサイケ感バツグンでとにかく最高です。ちょっとメタルっぽいノイズ感がいいですね。一般的なノイズ・ミュージックのイディオムから少し離れ、インスタレーション的な表現にも取り組んだように感じる良作。大きなスピーカーから爆音で浴びるべき1枚。

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43. eRikm『Mistpouffers』(Empreintes DIGITALes)

Electrocd

僕はそんなに多く作品を聴けていないんですけど、Luc Ferrariとの交友関係も知られたターンテーブリストサウンド・アート作家であり、仏・マルセイユを拠点に活動するeRikmの最新作。タイトルは「海鳴り」を意味する"Mistpouffers"。祝祭の風景を切り取ったコンクレート、氷や空気、ガス等を用いたプリミティブな雑音、Roland Kaynの「サイバネティック・ミュージック」にも通じる鋭利なエレクトロニクスで、2013年~2016年までのスタジオ録音での編成。薄いアンビエンスの幕の中で冷ややかな電子音や具体音が混ざり合っては腐食していく音響ノイズ作品。マスタリングがSenufo Editions主宰のイタリアの鬼才、Giuseppe Ielasiというのもこの作品の重要度を高めています。

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42. Cranioclast『Cract On Sail』(Auf Abwegen)

BANDCAMP

まさか、まさかの新作が遂に・・・・MerzbowPascal Comeladeなども擁するイタリア地下シーンの伝説的レーベル、ADNにも作品を残す、Sankt KlarioとSoltan Karikによるドイツのデュオ、Cranioclastが1993年以来、25年ぶりの最新アルバムをリリースする運びとなりました。この人たち作品数は多くないですが、Broken FlagやBeast 666 Tapesといった地下シーンのドン的レーベルのコンピにも参加してたりと、ノイズ/インダストリアル好きの間ではそこそこ名の知れた存在でした。20分以上の大曲二曲で編成されたアルバムで、重くのしかかるようにグライディングするギター・リフに、ミステリアスな電子音やサンプル、脈動するリズムが深いところまで聞き手を誘うエクスペリメンタルでドゥームな音楽体験。この調子でこれからもリリースは続けていって欲しいものですね。

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41. Khotin『Beautiful You』(Khotin Industries)

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Project PabloとはRest Corpとしても活動、今は亡き地下名レーベル、1080pから登場して以来快進撃を繰り広げ、昨年のカセット作品「New Tab」は爆発的にヒット、ヴァイナル化もされたカナダ・バンクーバーのDylan Khotin-FooteことKhotinによる最新セルフ・リリース・カセット。Summer CoolやMood Hutといったカナダのフローティン・ハウス~ローファイ・ハウス脈で培養された軽快なサウンドワークに乗せて、読んで字のごとく夢見心地のニューエイジアンビエントなヴァイブスを豊潤に放出した傑作。ニューエイジリバイバルとはまた別の文脈から放たれるニューエイジサウンドっていうのもまた乙なものがありますね。今年の夏はかな~りお世話になった一本でした。

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40. Hinosch『Hands』(TAL)

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おなじみベルリンのポスト・ロック・バンド、To Rococo Rotにも参加するデュッセルドルフのStefan Schneiderと、大阪が誇る超人的インストゥルメンタル・カルテットgoatを率い、YPY名義での個人活動やレーベルbirdFriendの主宰でも知られる日野浩志郎氏のコラボ・ユニット、Hinoschによる最新作。本作は、2017年4月に大阪でレコーディング。一切の無駄を感じさせない驚異的なスタジオ・ワークとして仕上がったファースト・アルバムとなった一枚です。変質的なビートや即興のエレクトロニクス、アナログによる無機質な人力ミニマル・テクノサウンドを聴かせる正確無比にして変態的な一枚。両者の個性が違和感なく混ざり合い、満遍なく発揮されたと言える傑作です。

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39. Chris Corsano & Bill Orcutt『Brace Up!』(Palilalia)

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才媛、石橋英子とのコラボ・アルバムを発表したばかりのDarin Grayと組んでいるデュオであり、坂田明と幾度となく共演しているChikamorachiでも活動する米国・ニューイングランドのドラマー、Chris Corsanoと、Editions MegoやOtorokuなどからのリリースでも知られるサンフランシスコのギタリスト、Bill Orcuttによるコラボ・アルバム。一曲当たりも短い楽曲が12曲収録された33分に渡るコンパクトなアルバム。基本、ギターとドラムのみによるインプロヴィゼーション/ノイズ・ロック作品ですが、楽器が二台とはとても思えないほど、濃密な広がりのあるサウンドがあちらこちらへと行ったり来たりする、とにかくパワフルな一枚。イライラもこれなら一発で吹っ飛びそうです。

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38. Fire-Toolz『Skinless X-1』(Hausu Mountain)

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Hausu Mountainというとそんなに頻繁に買ったことはなくて、昔Form A LogとかJerry Paperがカセット出してて買ったなあくらいの認識でした。なのでこんな超大作が出てくるというのはまさに盲点だった訳ですが、ちゃんと見逃さずに拾いましたよ。Bedlam Tapesや Legendary Entertainmentといったヴェイパー系のレーベルからも作品を出しているシカゴのプロデューサー、Angel Marcloidによるソロ・プロジェクト、Fire-Toolz。ポスト・インダストリアル~アンビエントブラックメタルニューエイジフュージョンまでもが融合したような得体の知れないサウンドはディストロイド以降の世界観やDeconstructed Club/Post Clubの音楽ともリンクする類まれなる一作。その度を超えてハイブリッドな音像はカオスという言葉ですら足りないほどにトチ狂っています。嫌いじゃないけどジャンルのカテゴライズというのは本当に無駄だなあと思わされた一枚です。

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37. Ryo Murakami『Sea』(Depth Of Decay)

SOUNDCLOUD

EP-4佐藤薫氏が今年立ち上げた新レーベル、φononと、Kyou Records、スローダウンRecordsという関西の三つのアンダーグラウンド・レーベルの面子が一堂に会した10月の京都メトロでのライブ・イベントで三年ぶりくらいにライブを見ることとなったRyo Murakami氏。本作は、彼のキュレーションするレーベル、Depth Of Decayからのヴァイナル作品。ライブではドープな漆黒音響ダブといった感じでしたが、今作は、序盤は先日のライブ通りのダーク音響ドローン・サウンドから始まり、徐々に徐々にピアノを交えたコンテンポラリーなクラシカルへと変遷、そこから更にストリングスを加えたスピリチュアルなドローンへと時間をかけて姿を変え、時と共に大きく移り変わるサウンドスケープを届けるアルバム。壮大な時の流れへと身を任せただただ沈むのみといった風情です。

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36. Jérôme Noetinger / Robert Piotrowicz / Anna Zaradny『CRACKFINDER』

BANDCAMP

実験系ディストリビューターの大御所、Metamkineを運営していたJérôme NoetingerとMusica Generaレーベルを運営している、ポーランドサウンド・アーティスト/インプロ奏者、Robert Piotrowicz、Piotrowiczと蜜月と思わしき、同国のサウンド/ヴィジュアル・アーティストAnna Zaradnyの三人によるコラボ作。Jérômeは上半期に出してた久しぶりのソロ名義での作品もかなり面白かったんですが、こっちも結構ぶっ飛んでます。Revoxやシンセサイザー、エレクトロニクス、サックスによるノイズ・インプロヴィゼーション作品で、しかしながら意外と酩酊感の強いサウンドは自然としっくりハマります。とにかくサイケです。マスタリングはRashad Beckerというのも重要ですね。

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35. Peter Kardas『I Saw You』(Echo Ocho)

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キング・クリムゾンのリーダーことロバート・フリップによって創設された団体である"ギター・クラフト"の門下生であった北カリフォルニアの青年、Peter Thomas Kardasによって、1986年から87年にかけて制作されていた知られざるプライベート・カセット作品群から楽曲を集めたコンピレーション・アルバム。KardasはLeague of Crafty Guitaristsの認定メンバーでもあるようで、その作風はフリップによるフリッパートロニクス奏法を彷彿させる、神聖な佇まいのサイケデリックニューエイジとなっています。脳髄を蕩けさすシンセサイザーの響きや淡々とループするミステリアスなフレーズ、ボーカリゼーションによる禅譲アンビエントサウンドは、瞑想や座禅のための音楽といった風情。ニューエイジ作品だと普段はもっとスピリチュアルな音色を好んで聞きますが、更に年輪を重ねればこういう渋めの作品ももっと好きになれそう。

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34. SHALT『Seraphim』(Astral Plane Recordings)

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Soundcloud上をメインに展開されているポスト・クラブ~Deconstructed Clubシーンに於いて、こうした音楽を取り上げ、ミックス・ポッドキャストの役割も果たしている、ロスアンジェルスの気鋭レーベル、Astral Plane Recordingsから発表された、その看板プロデューサー、SHALTの最新LP。同シーンに於いて稀有な扱いであるヴァイナルでのリリース。本作では「科学技術と自然の交差点にフォーカスしている」とのことで、先行公開されたプロモーションビデオで登場する、Nick Zhuデザインの不気味な天使のようなオブジェクトの異様さにまず立ち尽くすばかり。華麗なアンビエンスが宙を舞う中、SCI-FIなシンセサウンドが縦横無尽に駆け巡り、ノイジーなエフェクトや硬質なパーカッションが異形のベース・ミュージックを形作っています。最近はDeconstructedの文脈からリスナー生活的に離れていましたが、久々にこうした過剰な音の渦をガッツリ浴びているとやっぱり気持ちよく感じましたね。来年以降はどうなって行くのかな?楽しみです。

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33. John Carroll Kirby『Meditations in Music』(Leaving Records) 

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これも今年寝る前にリピートしまくったスピリチュアル・ニューエイジ大傑作の一つい。2017年にLAの新鋭レーベルOutside Insightよりデビュー、Blood Orangeのコラボレーターでもあり、Solangeの「A Seat At The Table」にも数曲参加した同地の新鋭プロデューサー/作曲家/キーボーディストのJohn Carroll Kirbyの最新作。リリースは、Brainfeederからの作品でもおなじみ、ビート・ミュージックからニューエイジ道をも突き進む鬼才プロデューサー、マシュー・ディヴィッド主宰のLeaving Recordsから。前作は世界各地を旅して回るようなコンセプト・アルバムでしたが、今作では一歩引いて、DX7やMini Moog Model Dを用いた禅譲サウンドで瞑想世界へと埋没したような作風に。これはライブ・パフォーマンス音源らしいですが、今年見たLaraajiの来日公演にも劣らないような圧倒的美しさでとにかく飲み込まれます。このカセット、限定150部と多めとはいえ、あるうちに買っておいた方がいいんじゃないでしょうか。

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32. Joseph Shabason『Anne』(Western Vinyl)

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昨年のデビュー作も気になったままスルーしてしまったこの人、新作でバッチリハマってしまいましたね。Angel OlsenやDinosaur Jr.といった有名なインディ系アーティストを抱える大手レーベル、Jagjaguwar所属のバンド、Dianaのメンバーで、トロント出身のサックス奏者、Joseph ShabasonによるWestern Vinylからの2作目のアルバム。本作では、彼の母親のパーキンソン病との闘病生活の心情を作品へと投影。ジョン・ハッセルの第四世界観からジャズ、テン年代ニューエイジリバイバル以降のサウンドを独自の感性で次の次元にまで推し進めたピュア・アンビエント傑作。霊性も溢れ出しそうな瑞々しいアンビエントサウンドと、サポート参加している大勢の楽器隊による豊かな旋律で織りなす儚くも美しい音楽は、どこまでも果てなく続き。間違いなく温かい心を持つ全ての音楽好きの震える手へと優しく寄り添うことでしょう。全面を覆うシンセの音色の澄み切った美しさには言う事なし。Gigi Masinもゲストで参加しています。

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31. Meuko! Meuko!『鬼島 Ghost Island』(Danse Noire)

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一昨年リリースしたカセット「Super Lo-Fi City」を皮切りに絶好調を繰り広げる台湾のエレクトロニック・ミュージシャン、Meuko! Meuko!。昨年には、Juke/Footworkを中心とした日本のレーベル<KOOL SWITCH WORKS>からも作品を発表しています。本作はチベットとスイスのハーフである才媛、Aisha Deviが主宰するレーベル、Dance Noireからの祝すべきリリースとなった一作。本作「Ghost Island鬼島(悪霊島)」は、彼女が夢に見た神話のようなストーリーからインスパイアされた、東アジアの混沌と台北の都会的喧騒、ディストピアSFをごった煮にしたようなミステリアスな世界観。ポスト・クラブをよりインダストリアルに冷徹に再定義したエクスペリメンタル・サウンドは孤高の領域へと突入。TzusingやPan Daijingも含め、アジアのクラブ・シーンの底知れないポテンシャルを感じさせてくれる一枚ではないでしょうか。本作は限定盤CDとしてリリースされそちらは完売していますが、まだデジタルが購入可能です。

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30. Melaine Dalibert『Musique pour le lever du jour』(elsewhere)

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Ensemble Chrysalideの一員として、ヴァンデルヴァイザー学派にも通じる地味で美しい系現代音楽レーベル、Another TimbreからリリースされたGiuliano d'Angioliniの「Cantilena」にも参加しているフランスのピアニスト/作曲家のMelaine Dalibertによるソロ・ピアノ作品。本作は、Yuko Zama主宰の新レーベル、elsewhereよりリリースされたもの。David Sylvianがアートワーク、Taku Unamiがマスタリングを手掛けるなど、プロダクトを支えるメンバーも非常に豪華な一作。静謐なミニマリズムを底流に、生糸を織るように繊細なタッチで描かれる、61分もの長大な楽曲。この手の音楽に慣れない人にとっては地味に感じる人もいるかもしれませんが、それも聞きどき次第できっと変化が訪れるはず。センチメンタルとロマンティックの狭間にある稀有なこの響きを前にしては、体育座りして没入しながら聞き入りたいソロ・ピアノのマスターピースです。

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29. Nicolas Wiese『Unrelated』(Karlrecords)

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本人を呼んでトリビュート作品を作ることでお馴染みのZeitkratzerや灰野敬二クセナキス、ケージなどの作品も発表しているKarl Recordsからは、ベルリン在住の電子音楽家/オーディオ・ビジュアル・アーティストのニコラス・ウィーゼの5年ぶり最新作。Hanno Leichmannの同レーベルからの新作とも迷いましたが、僅差でこっちに軍配が上がりましたね。ここ6年間のマテリアルを用いて制作され、不穏な音風景の中。唐突なカットアップによるエグい演出も軽やかに炸裂していく漆黒のドローン・アンビエント/ミュージック・コンクレート作品。ターンテーブリスト的な個性をどこかしこに感じるサウンドとリズムの妙が僕のツボを深く突いて来ましたね。やはり、このレーベルの慣例通り、マスタリングがRashad Beckerというのも、現行エクスペリメンタル・シーンに於いてその命脈を辿る上で本作が重要な作品であるということの現れです。

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28. Karla Borecky『The Still Life』(Recital)

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アメリカでミニマル/実験音楽を中心に制作している夫婦、Scott Foust & Karla BoreckyによるIdea Fire Companyの奥さん、Karla Boreckyによるソロ新作で、このRecitalレーベルからは久々となる作品。ここ、Recitalは上半期ベストにもSarah Davachi(Mazeumで来日してましたね)を選んでいて、毎年何かと外さない作品を出してくれるレーベルです。本作には、Idea Fire Company名義の楽曲である“The Life of the Party”(Impossible Salon収録)と “The Island of Taste”(Island of Taste収録)のピアノ・ソロ・ヴァージョンをフィーチャー。前述のMelaine Dalibertと同様ピアノ・ソロ作品なんですが、こちらはもっと肩の力を抜いて聴けるまったりとした小曲集。極めてシンプルながらもアンビエント的な楽曲の聴かせ方というか、この絶妙に繊細なタッチを保ちながら、淡々とトイフルで愛らしい音色が連なっていく様子も心に沁み入る感じです。こういう空気感の演出の仕方が試されるミニマルなピアノ作品って好きなんですよね。昨年、ブログ記事にも書いたRobert HaighやAndrew Chalk辺りが好きな人にも薦められそうな傑作です。

27. Thomas Ankersmit 『Homage to Dick Raaijmakers』(Shelter Press)

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Sunn O)))のステファンとPitaによるKTL、ロウレル・ヘイローと共に来日したOPNのマブダチEli Keszler、Felicia Atkinson & Jefre Cantu-Ledesmaと今年は異常にリリースが充実していた鉄板レーベル、Shelter Pressからリリースされた、地下シーンのモジュラー使い屈指の漢、PanやTouchといった著名レーベルからのリリースも好調なトーマス・アンカーシュミットの最新作。オランダのマルチメディア・アーティスト/テープ・ミュージック巨匠、Dick Raaijmakers (1930-2013)にインスパイアされ、全曲アナログで制作した最新作。ヘッドホンで聞いちゃダメよとの注意書きがある通り、高周波なサイン波やパルス、ランダム・ジェネレーターによる冷徹無比な電子音を交差させつつ、彼のトレードマークとも言えるサージ・シンセサイザーを見事に使いこなしたミニマル・ノイズ・エレクトロニクス。そして、やはり、同レーベルでもお抱えのRashad Beckerによるマスタリングというのもこの作品の重要さを物語っていますね。僕のベストの内容は忘れたとしても、このRashad Beckerの名前は絶対に覚えていただきたいものです。

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26. Fossil Aerosol Mining Project『The Recounting of Night Time』(Helen Scarsdale Agency)

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上半期もベストに選んだ、アメリカ中西部の音響考古学者4人組によって結成された、ゾビエト・フランスともコラボレーション・シングルを出しているグループによる最新作。本作は2014年の10月に制作・ミックスされたもので、1970年代のドイツのゴシック・シネマに焦点が当たっているとのこと。相変わらずいい塩梅に腐食した気味の悪いノイズ・アンビエントで、異様に錆び付いたモノクロの音景色を行ったり来たり。終盤が近づくにつれて少しドラマティックにもなるけれど、根っこまで枯れたそのサウンドはその薄気味悪くただただ沈んでいくばかりです。それでも何かグリーフワークでもしているような気分にさせられてしまうのがこの作品の不可思議な魅力ではないでしょうか。

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25. Matthew Hayes & Joel Trigg『Elegant Universe』(Ken Oath Records)

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Sleep Dなどのドリーミーなアンビエント・ハウスをリリースしているAnalogue Atticにも作品を残すメルボルンのジャズ・ベーシスト、Matthew Hayesと、同じくメルボルン在住のピアニスト/作曲家であり、教師でもあるJoel Triggのコラボレーション作品。これをリリースしているKen Oathから上半期に出た新人AngophoraのLPもスピリチュアルなニューエイジで素晴らしかったけど、それを二段も三段も上回る美しさで魅せてくれました。夢見心地のアンビエント・シンセに乗せて、ジャジーなピアノやしっとりとしたベースがゆったりと彩っていく透明度バツグンのアンビエント作品。ECMウィンダムヒルニューエイジ作品にも通じるその澄んだ響きは今年のその文脈の中でも有数の素晴らしさだと思います。この感じはポストロック好きの人にも届くかもしれないですよ。蕩けるような淡さに吸い込まれ、この夏結構カセットで聴き込んだ1本です。

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24. die ANGEL『Yön Magneetti Sine』(Edition Telemark)

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今は亡きミカ・ヴァイニオとPan Sonicとして活動した鋼の男、イルポ・ヴァイサネンと、Bureau Bなどからのリリースでも知られるシュナイダーTMによるユニット、AngelことDie Angelの9作目。この作品もEditions Megoからのヴァイサネンソロ作品とは別のミカ・ヴァイニオへの追悼盤なのでしょうか。ベーシック・チャンネルにも連なる音響ダブやインダストリアルなどの要素を組み込みつつ、インプロヴィゼーションを主軸に置いたノイズ・エレクトロニクス作品で、歌のない電化不失者といったような風情の濃密な音楽体験が約束される1枚。現行エクスペリメンタル・シーンを代表するマスタリング技師、Rashad Beckerによるマスタリングというのも、この作品の重要度を物語っています。しかし、Angelの作品はこれ含め3作しか聞いたことがなかったんですが、このドープさにはまたしてもやられましたね。哀愁さえ感じるこの果てない衝動は何なのか。もちろん、Pan Sonicファンは間違いなくチェックしたほうがいい一枚ですよ。

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23. Demdike Stare『Passion』(Modern Love)

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出す度出す度ハズしませんね、こいつらは!UKマンチェスター在住のMiles WhittakerとSean Cantyの2人によるModern Love主力級プロジェクト、Demdike Stareの2年ぶりの最新作。自身のレーベル、DDSでも、邦人プロデューサー、Shinichi Atobeやジャマイカン・ダンスホール新鋭Equiknoxxを発掘したりと話題に事欠かなかったこの人たち。先日には、4編に渡るミックステープ・シリーズも発表したばかりで、僕は金銭的にミクステを入手出来ず悔しがっていたところです。本作は、現代グライムからダンスホール、ベース・ミュージックにインダストリアル/ノイズ、ダブテクノのハイブリッドともいえる様相で、圧倒的狂熱と破壊衝動に揺れるパワフル極まりない尖鋭的クラブ・サウンドに仕上げています。前作よりも重く、さらにドープになっていて、個人的にかなり好みの1枚です。マスタリングもRashad Beckerのライバル的存在、Matt Coltonと100%見逃せません。

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22. Ultrafog『How Those Fires Burned That Are No Longer』(Motion Ward)

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個人的にもそのカタログの全てを収集してきた東京現行アンダーグラウンド・シーン孤高の存在、Solitude Solutionsやスペイン・バルセロナで異彩を放つカセット・レーベル、Angoisseなどからも作品を発表しているKouhei FukuzumiによるUltrafogの初となるヴァイナル作品。リリース元は、SoundCloudで先鋭的なポッドキャストを運営しているLAの新興レーベル、Motion Ward(買い逃してきたけどここのリリースは大概素晴らしい。)Basic Channel直系とも言えるダブ・テクノ・サウンドが、水性のアンビエントシンセサイザーと絡み合い、幽玄ながら確かな温かみを持った稀有な響きへと昇華されていく現行の邦人ドローン・アンビエント作品の中でも屈指の出来と言える作品。Huerco S.のWest Mineralからデビューを果たしたuonによるアートワークも秀逸です。地下シーンで今年鳴らされた邦人作家の音の中でも極めて高い没入度。次どんな作品を出してくれるのか気になって仕方がありません。

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21. H.TAKAHASHI『Low Power』(White Paddy Mountain)

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去年の「Raum」や先日の「Escapism」もありえないほど良かったばかりの東京のアンビエント作家で建築家でもあるこの方。昔、Takahashi氏のSoundCloudが出来たばっかりの頃から偶然見つけて応援していますが、やっぱり出す度に次の次元へと向かっています。Chihei Hatakeyama氏主宰の名レーベル、White Paddy Mountainからの発表となる本作は初となるCDフォーマットでのリリース。エリック・サティの「家具の音楽」からブライアン・イーノの「アンビエント」、ローデリウス、吉村弘、芦川聡、そして、現行のニューエイジアンビエントリバイバルに至る文脈へとしっかりアクセスしつつ、彼の個性的なパレットで描いた瑞々しいサウンドは、圧倒的瞑想度&没入度たっぷりのアクアティック・アンビエント大傑作に仕上がってます。CDというフォーマットも良い。曇りがかった日にでも、ユラユラと外を散歩しながら聞いていたりすると、なんてことない毎日が特別にならなくてもいいんじゃないかと思えてくるような、そんな風でありたい僕たちモラトリアム人間の葛藤と青春に捧げたい美しい一枚です。

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20. Rabit『Life After Death』(Halcyon Veil)

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テキサスのヒューストンを拠点に活動するプロデューサーであり、ポスト・クラブ・シーンの形成に携わってきた重要プロデューサー、Rabitの最新作。結局買い逃してしまったけど、先日のミックステープも凄い良い評判を聞いていたこの人。レーベルHalcyon Veilを主宰し、ポスト・クラブ・シーンのみならず、エクスペリメンタル・エレクトロニック史にも名を残す作品の数々を世に送り出して来たキュレーターとしても重要な人物です。本作はレーベルメイト、IVVVOも参加。この人も稀有な景色を描いてきた人ですが、段々と作風がドープな方向へと向かってきていて、個人的には大歓迎。傑出して強度の高いその音楽は、Deconstructed Club / Post Clubから、INA-GRMのミュージック・コンクレート/エレクトロ・アコースティック、ポスト・インダストリアル、ドローン/アンビエントまでもが繋がっていると言っても過言ではないサウンド。ハイブリッドかつストイックに黄泉の風景を描いていくエクスペリメンタル・コラージュ傑作。Rabitが元より志向してきたことですが、この人はきっといつか異星人になる、そんな気がしてなりません。

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19. Scandinavian Star『Solas』(Posh Isolation)

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プース・マリーに、アイスエイジ、エイジ・コインに、クロアチアン・アモル・・・・・大学一回生の時に出会ったとある先輩と並んで僕の音楽生活を変えた要因の一つ、原宿のBiglove Recordsにコペンハーゲンのエクスペリメンタル/インディ・シーンという言葉を叩き込まれてから、ずっと追い続けてきたその牙城とも言える、Posh Isolation。毎年、必ず何かの作品をベストに入れている気がしますが、やっぱり今年も引っ掛かりました。最近、現行の音寄りのエレクトロニックから離れていましたが、最近どうやら僕の耳もそっちの方面に少し戻ってきたみたいです。Posh Isolationとかその周辺の人脈は少ないクルー達がその別名義を使い分けたり、複数のバンドやユニットを組んでいたりすることがよくありますが、やはり、このスカンジナヴィアン・スターのマルテ・フィッシャーもラスト・フォー・ユースのメンバー。平凡な日常と情熱的な仮想現実の境目すらも曖昧にさせるポスト・インダストリアル志向なアンビエントサウンドへと乗せて、SCI-FIなエレクトロニクスが葛藤する様子にはただ没入させられるのみ。テン年代のラストとなる来年。このレーベルの動きは例年以上に見逃せないものがあると思います。

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18. 桑山清晴『FALSEGRAPHIA』(Not On Label)

OMEGA POINT

二年前もベストに選出している名古屋の作家で、Lethe名義でも素晴らしい作品を残している桑山清晴氏による最新作で、同じ内容のアナログ盤とCDRがセットになっているというお得な一作。パッケージも一点一点手作業によるシルクプリント仕様と所有感溢れる決定盤。この人は、以前に、京都でよく行くレコードショップの一つ、パララックス・レコードで森さんにLethe名義の過去作を薦めて貰って初めて知り、尖端音楽に触れ始めたばかりだった僕のツボにとことんハマった作家。インダストリアルな残響音を用いたドス黒いサウンドを操る作風で知られています。本作は、紡績工場廃墟での2014年録音マテリアルを用いた二曲を収録。怒涛のスケール感で押し寄せるドローンのテクスチャーと、骨まで届く錆び付いた残響音の織りなす音響空間系エクスペリメンタルの大傑作。計20分ちょっとと短い収録時間ながらも、2016年の前作同様圧倒的な音体験が約束される超越的なサウンドにはただ呑み込まれるばかりです。皆もあるうちに買おう!

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17. Linda Catlin Smith『Wanderer』(Another Timbre)

Another Timbre

このAnother Timbreもヴァンデルヴァイザー学派と並んで地味な現代音楽を届けることで有名ですが、この作品は度を超えて美しいです。同レーベルのカナダの作曲家シリーズから登場した前作「Drifter」が各所で大きな話題を呼んでいた人物であり、ニューヨーク出身カナダ在住の女性作曲家、Artifact MusicやMaria de Alvear World Editionなどのグループで活動、モートン・フェルドマンのレクチャーも受けていたLinda Catlin Smithによる最新作。演奏しているのは、現代音楽を中心に演奏している実験集団、Apartment House。繊細なピアノのタッチや管楽器の朧な演奏の中に影があり、ノスタルジックでも実存的でもない、不思議な感覚が付きまとう不可思議な演奏。静寂の中にも確かな熱量が秘められていて、高度に洗練された美があちらこちらから湧き上がってきます。とにかく美しいので好みのジャンルを問わず広く聞かれて欲しい1枚です。

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16. exael『collex』(West Mineral)

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上半期もPendantをベスト選出したHuerco S.(フエコ・エス)の始めた新レーベル、West Mineral。ここは今年4つの作品をリリースしていますが、どれもBasic Channelから連なるダブテクノの命脈に息衝く傑出した出来の作品を残していて、今年設立されたアンダーグラウンドのレーベルの中でも、1番注目を集めたレーベルと言っても過言ではないでしょう。今作は、2012年にヴェイパーウェイヴの聖地、Beer On The Rugから登場していたExaelの初となるLP作品。これもまた、初期のVladislav Delay、MonolakeことRobert Henke辺りを彷彿させる硬質なダブテクノ・サウンドに、ポスト・インターネット~ヴェイパーウェイヴ以降の感性を織り込んだフューチャリスティックなディープ・アンビエントでかなり強烈な出来。上半期のPendantと比べると前者に軍配が上がってしまいますが、こちらもこちらで卓越したサウンドだし、ハコで聞いた時の映え具合もダントツで違いそうです。Rashad Beckerと対を成す名技師、Matt Coltonマスタリングと、これはヴァイナルで持つべき1枚。このレーベルは来年の動向も楽しみですね。

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15. THE CARETAKER『Everywhere At The End Of Time - Stage 5』(History Always Favours The Winners)

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100年前のヴィンテージ・レコードのサンプリングでお馴染みの漆黒のダークアンビエント紳士ことLeyland Kirbyによる大人気名義The Caretaker。2016年に3年間に渡って6部作を発表するとアナウンスされてから、もうその第5弾まで来てしまいました。僕は全作品をヴァイナルで揃えることは諦めましたが皆さんはどうでしょう。さて、前作からかなり作風が一気に変わってパラノイアへと陥り、妄想/分裂を繰り返し始めていましたが、今作もかなりこんとんの彼方へと沈んだノイズ・コラージュ作品になっています。サンプリングされた古きよき時代のレコードを原型を留めていません。もう戻れないところまで来てしまったのでしょう。初期の宵闇のメロディのような明朗さはありません。ドローン状の屈折したノイズ・サウンドアヴァンギャルド加減が実に耳に心地好い。この先の展開が全く読めませんが、来年の最終作が楽しみすぎてなりませんね。

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14. I-LP-ON『Äänet』(Editions Mego)

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Pan Sonicの一員として、長年に渡ってエレクトロニック・ミュージックを牽引してきたミカ・ヴァイニオは昨年53歳でこの世を去りました。僕も1番ライブを見て見たかった人物でしたが、1度も見れずじまいだったことが悔やまれます。本作は、その盟友、イルポ・ヴァイサネンがミカ・ヴァイニオへと捧げる1枚で、ヴァイナルにはジョン・ダンカンが撮影したミカの写真も収められています。本作では2000年のパン・ソニックの世界ツアー時の音源を使用しており、セルフ・オマージュといった形に。クラブ・ミュージックと複雑に入り組んだエクスペリメンタルの最新系を常に提示する立場であったパン・ソニックの一員として、その価値観を再定義するに足る、鋼鉄のファンクネスと冷徹なサウンドを聞かせてくれる1枚。インダストリアル・ミュージック勃興以降のカタルシスを全て詰め込んだような孤高の音。この作品にロック的な衝動を感じる人も多いでしょう。まさにパン・ソニック肖像画と言える大傑作です。

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13. Ian William Craig『Thresholder』(Fat Cat)

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Bandcampでの自主リリース作品でデビューを果たし、Sean McCann主宰のRecitalやベルギーのニューエイジリバイバルの聖地Aguirre、地下カセット・シーンのアンビエント脈を培養してきたPatient Soundsなどからのリリースで着々とプライオリティを発揮、一昨年には遂に名門Fat Cat傘下のレーベル130701から登場するなど昨今その広がりを見せている作家、イアン・ウィリアム・クレイグの最新作。Recitalからの昨年作「Durbē」があまりにも良すぎたんですが、今作はソレをさらに超えてきたなと。ボヤけた空気感の中で、神聖な温かみに満ちた美しいアンビエント・クラシカルを聞かせるこの1枚、その奥深いサウンドにはただただ吸い込まれていくばかりです。彼は以前、オペラを修練していたという過去があるとのことですが、そうした朧気な動きを伴ったような映像喚起性を覚える作品であり、全体的に静かな動きを見せているように感じられ、そこには一切のムダが介在していないようにも思えます。まさに今年聴いたアンビエントでもトップクラスの出来。心の淀みさえも澄み渡らせる、底知れず美しい音楽です。

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12. William Basinski & LAWRENCE ENGLISH『Selva Oscura』(Temporary Residence Limited)

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いや~これはホントに圧倒的です。もはや、ドローン・ミュージックの生ける神とも呼べる名作家ウィリアム・バシンスキーと、現行電子音楽レーベルの頂点の一つと言えるであろうRoom 40を主宰する豪州のサウンド・アーティスト、ローレンス・イングリッシュの二名による夢のコラボレーション作品。今作は二人は五年以上に渡って連絡を取り合い制作した作品であり、ザグレブロサンジェルスホバートなど、世界各国の様々な都市で繰り返しコラボレーションし、最終的にブリスベンとロサンゼルスでレコーディングされたもの。そして、彼らの友人であり、今年逝去した実験映像作家であり、Paul Clipsonに捧げる作品としてリリースされるに至った一枚。Clipsonはテン年代前半に興隆したアンビエント/ドローンのシーンにおいて重要な役割を担っていた作家で、 GrouperJefre Cantu-Ledesma、Sarah Davachiといったアーティストの映像作品も手掛けています。ミクロおよびマクロの特性を反転、反復させつつ再配列されていくプロセスによって生成された音像は、押し寄せる波というより、壮大な時の流れにも例えられそうな、圧倒的な静謐の中でただ喪に服すばかりの至高のアンビエント体験。今年もドローン/アンビエントは豊作でしたが、これは格の違いを見せつけに見せつけている一作です。

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11. GABI『Empty Me』(Double Double Whammy)

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2015年にはOPNが主宰していた名レーベル、Softwareよりデビュー。ブルックリンを拠点に活動している女性作家/エクスペリメンタル・ボーカリスト、Gabrielle HerbstによるGabiの三年ぶりのフルアルバム。本作では、ゼロ年代に於いて最高の輝きを放ったシンセシスト・トリオ、EmeraldsのメンバーでもあったSteve HauschildtがシンセサイザーMatt Evansがパーカッション、Laura Coxがフルート、Jacob Falbyがバイオリンをそれぞれ担当しています。2015年にデビュー作となる「Sympathy」をSoftwareからリリースし、北米とヨーロッパをツアーした後、彼女は激しく変革期を迎え、しばしば真夜中に目覚めては、新しい曲を書く必要があったとのことです。前作より、よりポップに、楽曲もコンパクトにまとめられ、さらにディボーショナルな作風へと向かっているこの「Empty Me」ですが、旺盛な実験精神の衰えは全く感じられません。精霊の音楽とはまさにこういうものなのか、存在自体もはや高次元へと向かう神聖なソプラノの歌声と、それすらもエレクトロ・アコースティックの表現手法の要素の一端として使用する大胆なサウンドワークによって織りなす、パワフルで越境的な米国産ニューエイジ歌謡最強クラスの一作。Pitchforkもあまりいい点付けてなかったり、インディやエクスペリメンタル・リスナーの間でも、全く話題にならなかったのが勿体ないなというところだけが悔やまれるばかりです。この感動的音楽体験、まだまだ間に合いますよ!. 

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10. Vessel『Queen of Golden Dogs』(Tri Angle)

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何年も前から言ってますが、1度はArcaに回収されてしまったかに見えた流れを、LoticやBrood Ma、Katie Gatelyなどといった、Deconstructed Clubにも接続するアクトらの新潮によるここ数年のリリースで巻き返してきたTri Angleから、今年活発に動いたYoung Echoのクルー、Vesselが新作を出すということでもちろん無視する訳にはいきません。TMTの「エクスペリメンタル・チェンバー・エレクトロニカ」という形容もしっくり来る、トランスからアンビエント・ポップ、ポスト・クラブなども横断した異形のサウンドは、クラブ・ミュージックとエクスペリメンタルの融合が普遍的な高まりを見た、テン年代標準のサウンドをさらに更新すべく鮮烈な音風景を伴って届けられる。これらポスト・クラブの音楽が概ねSFチックであるのに対して、この作品ではそれがさらに供給過剰であり、もっと神話性の高い1枚のように感じられます。今年「硝煙画報」という新しく創刊されたカルチャー雑誌で、Deconstructed Clubについて特集記事を組みましたが、これらの音楽に長年触れてきた身としても、この作品はその新潮を生み出すに足る傑出した作品だと思いました。Young Echo周辺、来年も楽しみでなりません!

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9. Maria w Horn『Kontrapoetik』(Portals Editions)

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2015年をピークに、ここ2、3年勢いの衰えているエクスペリメンタル・カセット界の中でも、Strange Rules、Male Activity、VAAGNER、Plush Organics、XKatedral、ARCHIVE、Moral Defeatといったレーベルは、その兄貴分とも言えるコペンハーゲンのPosh Isolationの後に続くように陰のあるアートワーク・デザインが印象的なポスト・インダストリアル~アンビエント・ミュージックを届けていて、このMaria w Hornもその中の一つである、XKatedralからソロ・デビューを果たした人物。この人は、名門Subtextからも作品をリリースしているスウェーデンの女性音楽家、Ellen Arkbroともエクスペリメンタル・ロック・グループ、Hästköttskandalenを組んでいたりと、崇高なる地下シーンの無限の水脈の中でひっそりと活動を続けてきたストックホルムの作家。本作は、チャーチ・オルガンやメロトロン、そして、名機Buchla200を用いて制作されたアルバム。スウェーデンの民謡や古い磁気テープからインスピレーションを得ており、彼女の生まれた土地にまつわる悪魔信仰などを土台に、フィールド・レコーディングと同国のラジオのアーカイヴからの音源を用いて制作された作品。禍々しく揺れる白昼夢ドローン・サウンドを底流に敷きながら、ボヤけた不気味なフィルレコやサンプル音が淡々と挿入され、足を踏み入れたらもう帰れそうにもない何処かへと聞き手を誘う呪縛&破滅の冥界アンビエント・ドローン。時々差し込まれる神聖な音色が温かくも、その先に鳴り響くディストーションやノイズが悪魔的な魅力を醸し出しています。禍々しいサウンドと裏腹に不思議と没入感の溢れる作品で、聞き入るように向き合いたくなる美しさを放つ大傑作です。あまり話題になっていないのがかなり勿体ないのでこの機会に皆さんも是非聞いてください。

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8. 濱瀬元彦『インタリヨ』(Studio Mule)

DIsk Union

数年前に山下達郎や国分友里恵を聴いてからというものの僕も人並みに70~80年代のシティポップに凝っていて、確か亜蘭知子の作品をdiscogsで調べていた時に行き当たったこの人。今年知ったばかりなのですが、出会って早速「レミニッセンス」を買ったばかりだった春頃にフォロワーの方が運営しているディスクユニオン傘下のレーベルから1988年作の「♯Notes Of Forestry」が再発。そして、この「インタリヨ」と「レミニッセンス」が我らがMule Musiqから再録されるなど、今年は話題の尽きない人でした。再録というのも実は権利関係が厳しいらしく、忠実に再現する形で本人が直々に再レコーディングしたものということで事実上の最新作とも言える1枚です。濱瀬元彦氏は、ジャコパスが来日した際、会いたいと指名されたほどのジャズベーシストで、昨今再評価の渦にある清水靖晃とは"Jazz"としても共に活動、音楽理論家としても有名な方です。本作は、喜多郎や宗次郎も在籍したニューエイジ・レーベル、Shi Zenに残された86年作品の再録。オリジナル盤は吉村弘やイノヤマランド同様、世界中のコレクターが求める激レア盤としても有名です。再録といって避けがちもしれませんが、こちらも2018年屈指のクオリティ。ライヒイズムを感じる透明な木琴の響きに乗せて、瑞々しいシンセサイザーのアンビエンス、ジャズベースの柔和な演奏がゆったりまったりと広がりに広がるあまりにも美しいサウンド。2018年にリリースされたニューエイジ作品としては、KagamiやJohn Carroll Kirbyらと並んで最高クラスの美しさを誇る1枚と言えるでしょう。

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7. 矢吹紫帆『~極上の眠りのために~天空のさざ波』

CAMPFIRE

アニメ「凪のあすから」では天女座にモデリングされている音楽家、矢吹紫帆さんは、カネボウ美容研究所とゆらぎのCDシリーズにも作品を残す人物で、ニューエイジ音楽の先駆けとしても知られ、現在、三重県で海を一望する音楽ホール&カフェの「天女座」を運営されています。高騰を極める1987年のアンビエント名盤「からだは宇宙のメッセージ」が今年レコードストアデイ企画で再発されて、僕も再発盤ヴァイナルを購入し、彼女の音楽に初めて触れました。さて、本作はクラウドファンディングで発表され、試聴リンクなし、サイン入り7000円と、今年買った新譜のCDの中で冒険的であり一番値が張った1枚ですが、やはりそれだけの対価は支払うもの、想像を超えて良かった作品。本作は、「極上の眠り」をコンセプトに制作されており、長年の睡眠障害に悩む身としても、矢吹さんのいちファンとしても買わざるを得なかった作品でした。この作品の制作にあたって、矢吹さんは、クリスタルボウルのセミナーを受講され、日本クリスタルボウル協会のサウンドヒーラーの資格を取得されています。また、この1枚はマナーズサウンドとクリスタルボウル、ピアノの世界初コラボを果たした作品でもあります。ピアノとクリスタルボウルによる幽玄かつ静謐な演奏は、陰影もありながら、どこか温かみを感じさせ、ブログでも取り上げたTomoko Sauvageの昨年のShelter Pressからのアルバムを彷彿させるような厳かな空気感と、底知れない奥深さを覚える孤高の音世界を形作っています。もしかしたら、アンドリュー・チョークとかロバート・ヘイの作品が好きな人にも薦められるかも。この澄んだ響きには雑念に満ちた僕の心も洗い流されるような、尊い輝きがあちこちに散りばめられていて、これは一生お世話になる1枚だと思います。ニューエイジ・マニアや不眠症の患者だけではなく、あらゆる音楽好きに広く聞かれて欲しい作品です。

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6. Amnesia Scanner『Another Life』(PAN)

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Pitchforkでは7.5点というのがちょっと納得がいかないこの一枚。"Deconstructed Club"、つまりは「ポスト・クラブ」 と呼ばれる音楽を形作った人物たちと言っても過言ではない、現行エレクトロニック・ミュージック・シーンの最重要アクトの一つとも言うべき2人組であり、共にフィンランド出身のVille HaimalaとMartti Kallialaによるベルリン在住のデュオ、Amnesia Scanner。この10年を通して大きな変容を遂げた同地のエクスペリメンタル・ エレクトロニック・ミュージックの中心レーベル、PANよりリリースしたデビュー・ アルバム。PANからのアルバムは下半期はPuce MaryにObjektも出ており、迷いに迷いましたが、VisionistにCodesレーベルをキュレーションさせたりしていた彼らのレーベルの粋としては、間違いなくこれを選ぶべきでしょう。彼らアムネシア・スキャナーは2014年に結成されており、 同年には既にEvian Christ「404 Not Found」、M.E.S.H. 「FACT Mix 446」といった先鋭アーティストのミックスに取り上げられ、また、 2016年にはThe XX、FKAツイッグスらを擁する名門Young Turksから早くも12"を切るなど、 常に話題を攫っていた存在でした。そして実は、 09年デビューした四つ打ち中心のDJユニット、 Renaissance Manの別プロジェクトであり、よく見ると 名前はそのアナグラムとなっています。グライムやポスト・インダストリアル、サンプリング、クラブ・ミュージックを横断し、その名の通り、脱構築するポスト・クラブの音楽に於いて、供給過多に陥りやすいSci-Fi的な要素ですが、不思議と聞き疲れしないサウンド。クラブユースに鳴らしても問題の無さそうなプロダクションはさすがと言ったところでしょう。この作品は、「硝煙画報」でのDeconstructed Club特集にもフィーチャーしましたが、ただでさえ度を超えて鮮烈なサウンドの数々が渦を巻くポスト・クラブ史の命脈に於いても、重要な一枚として残っていくのではないかと思います。今、オンライン・アンダーグラウンドで勃興しているこのポスト・クラブ・シーンへと入っていく上での入門盤として相応しい傑作。

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5. ガセネタ『GASENETA LIVE 2018.04.25』(LOFT RECORDS)

DISK UNION

ガセネタは1977年に明治大学の現代音楽ゼミナールで結成されたバンドで、日本でも最初期のオルタナティヴ・ロックバンドと言える伝説のグループ。自称「最後のハードロックバンド」。1979年にはたった2年で解散。バンド名は幾度となく変遷し、1993年になるまで音源はリリースされることがなかったような奇怪極まりないグループとして、日本のアングラ史に君臨しています。実は先月、LAFMS研究家の坂口卓也氏が主催している「LAFMS塾」に毎度の如く行った時に偶然にもガセネタの山崎春美さんがいらっしゃっていて、凄く驚いたんだけど、その時にフラゲしてサインも貰ったガセネタの最新録音(その時僕はアルコール度数超弱い酒で昏倒して話を半分くらい聴き逃していた……)。でも、イベント後にお話したら山崎さんは凄い優しい方でした。さて、本作は2018年4月に新宿ロフトで行われたライブ音源を収録。同時に、限定生産の7インチもリリースされています。こないだ出たボックスなどの既出音源や未発表テイクなどをコンパイルしたヴァイナルの方も素晴らしかったけど、僕が日本のアングラにハマるきっかけとなったバンドのひとつの新録というのは非常にそそられるものがありましてね。しかし、新録と言ってもガセネタのオリジナル曲は4曲しかなくて、収録されている全てそれの再録なんだけど・・・・。しかし、結成40年にして、とにかく力押ししまくりの怒涛の演奏で突っ走るに突っ走る。これホントにいい録音で、中村宗一郎氏によるミックスの妙もあるのか、聴き応えもめちゃくちゃバツグン。ライブで未だに見たことは無かったんだけど、これを聴いてこりゃ見れるうちに見とかないと損するバンドだったんだなと痛感しました。もし次のアルバムが出るとしたらまた同じ曲の再録して欲しいです。

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4. TTNG『Animals Acoustic』

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最近インディがあまり沁みなくて、今回はインディ系はベストから省いちゃったんですが、これはちょっとあまりにも良すぎて入れざるを得なかった。本作は、僕にとって、マスロックの入口になった思い出深いバンド、This Town Needs Gunsの名作「Animals」のアコースティック・ヴァージョン。彼らは英国・オックスフォードで2004年に結成し、アメリカのレーベル、Sargent Houseにサイン、本作はそんな彼らのファースト・アルバムのリテイクです。彼らはラスト・ティーエイジャーの頃に聞き入るように聞いたバンドで、オルタナを聴き始めたばかりの頃の僕のオルタナティヴな音楽への想いを支える存在のひとつでもありました。しかし、ツイッターで拡散されて回ってきて久々に再会しましたが、これは見事にやられたもんです。このアコースティック版では、「Animals」で重要な役割を担っていたStu Smithが復帰、おなじみ、American FootballのNate Kinsellaを始めとした豪華なゲスト陣が参加し、同作から10年目を祝す相当な気合いの入った1枚です。ストリングスやトランペット、ハープ、シロフォンなどによるストイックで精緻極まりないアンサンブルに乗せて、ベース・ボーカルのHenry Tremainによる瑞々しい歌声が情感豊かに響き、ノスタルジックでありながらも永遠にすら届きそうな素晴らしい体験を届けに来る傑作。絹を織るように優しくエモーショナルなサウンドは聴く人の心へと沁み込んで離れません。きっと天国ではこんな綺麗な音楽が鳴り響いてるんじゃないでしょうか。エクスペリメンタルが中心な音楽生活になったけど、こういうちょっと離れていた音楽でも感動出来るのは嬉しいことですね。

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3. 青葉市子『qp』(SPEEDSTAR RECORDS)

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日本のインディシーンを代表するシンガーソングライターであり、2年前も「マホロボシヤ」をベストに選んだこの人、昔からずっと好きなミュージシャンですが、年輪を増すごとにその味わいは増していくようです。アングラ音楽野郎の僕にとって、これほど有名なリリースになるとCDを買って聞くということは後回しにしてあまりないのですが、今作はなんとしても買わざるを得なかったです・・・本作はオオミズキアオをモチーフに水月鏡花を表現した作品で、自身の師である山田庵巳のカヴァーも収録しています。試聴で「月の丘」を聴いた時はホントに吸い込まれましたよ。AMAZONのレビューを見ているとニック・ドレイクを感じた人もいたみたいですが、僕には「現代のニック・ドレイク」と言われるガレス・ディックソンの方がより近く感じるかも。ガット・ギターの織り成す艶やかな音色、青葉市子さんのとんでもなく透明な歌声、瞬く間に心へと溶け込んで一体化するような尊い感覚に包まれます。なんでこんなに美しい音楽が存在しているのか、僕にはもはやよく分からなくなる次元でこの作品は心に沁みたし、多分一生聞いていくことになるアルバムなんだろうなと思いながら、何度も何度もウォークマンをリピートするだけでした。その音楽は歩く景色や暗い部屋を照らすようにただただ温かくて尊いものがありました。「歌」っていいな、今更ながら、音楽ってホントに素晴らしいと再認識した1枚です。未だに彼女のライブを見れていないんだけど、これからさらに未知なる彼女のライブを体験出来る機会があるかもと思うだけで僕は幸せ者かもしれませんね・・・

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2. 志人 / 玉兎『映世観-うつせみ-』(TEMPLE ATS)

WENOD

さてさて、もう2位まで来てしまいました。こんなドチャクソ長い文章をここまで読んで貰えただけで僕としては何も言うことはありません。しかし、これもまたあなたの音楽体験へと刻みつけて欲しい1枚です。降神の一員として、なのるなもないと共に活動し、ヒップホップ(と言っていいのか?)のアンダーグラウンドで孤高の音楽を紡ぎ続ける僕が知り得る限りでも究極の日本のミュージシャンの1人、山の中で自給自足の生活をして暮らしている仙人のような男、志人の最新作は、その入門盤にも相応しいといえる1枚です。dj ao/kazuma shiraki/ONTODAとの共作作品instrumentalや特別バージョンの楽曲を含めた全12曲収録しています。ポエトリー・リーディングだとか、アンダーグラウンド・ヒップホップだとか、もはや、カテゴライズさえも意味を為さないその音楽はまさに孤高の響きを以て聞く人を迎える。スガダイローとの「詩種」を聴いた時はあまりにも鮮烈な音楽体験に1日立ち上がれなくなりそうなほどだったけど、この1枚もソレにも劣らない孤高の言葉が淡々と紡がれていきます。その詩の世界はもはやこの世の深淵へと連なり、心の闇を全て抉り出し尽く浄化するだけの神秘がここにはあります。この人の音楽は僕の言葉ではとても説明出来ない。知っている人は結構いると思うんだけど、未体験の人はこの圧倒的な音の葉を一度浴びてみて欲しい。先日のMAZEUMで見れなかったことが悔やまれるけど、同じ京都にいてくれるというだけでどれだけ有難いことのなのか・・・僕が知り得る限り最も美しい日本語を紡ぐミュージシャンの1人です。

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1. DE DE MOUSE『be yourself』(not records)

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意外でしょうか?1位です。遡ること数年前、高校生の頃は、音楽はそんなに深く聞いてたわけじゃないんですけど、既に音楽にはずっと没頭していて、音楽の話をする友人を躍起になって探していた時期でした。そんな頃、高二に上がる頃に今でもたまに連絡を取る友人に出会って、彼からTHE BACK HORNやamazarashiを教わったのが僕にとって非常に大きな体験でした。それを聴くまで、僕はそれまで平仮名でしか人とメールすることが出来なかったり、人の悪口ばかりで盛り上がるばっかりの人間だったんですが、この2つに出会ってから、少し日本語能力が上昇したり(?)、少しは人の気持ちを考えたり出来るようになった気がします。遅咲きの厨二病を拗らせたりもしましたけど、いい思い出。高校を卒業して、僕が療養のために浪人し始めた頃に彼がメールで教えてくれたのがこのDE DE MOUSE。その頃僕はキセル空気公団とかを聞いていた頃でしたが、凄い丁度いい塩梅に僕にとって初めてのエレクトロニカは沁みました。同時期にエイフェックス・ツインなんかにも本格的に触れ始めた感じでした。そういう思い出があるのがこのDE DE MOUSEです。しかし、今年はホントに久しぶりにこの人の音源を聞きました。ツイッターで話題になっていて、とりあえずストリーミングに入れとくか、くらいの気持ちだったんですが、聴いたらあまりにも良すぎてぶち上がってしまった・・・音楽を聴いていて踊り出したい衝動が抑えきれなくなるとか、圧倒的過ぎて全てが無になる瞬間って未だにあるんだなって言うのが、今年は上半期の土井玄臣さん対になるDE DE MOUSEでした。この音楽の内容について語るなんてことはちょっと僕には出来ない。ただただ、圧倒されるという強烈な音楽体験が僕を支配してしまうからです。久々に音楽で言葉を失ったんじゃないかな。そんな体験がこれからもまだまだ待っていると思うと生きていける気持ちになる。もちろん音楽は何度世界が滅びようとしぶとく生き残っていつまでも続いていくだろうし、僕にも、皆さんにとっても、そんな素敵な音楽が、来年も待っていますように。