Roberto Musci - The Loa of music (The complete sessions) (2017)

「Music From Memory」という今や名門とも呼べるであろう新興レーベルの軌跡が、昨今のクラブシーンに於けるバレアリック~ニューエイジ、トラディショナルな音楽の再考に至るまで多大な影響を及ぼしてきたことは多くのリスナーが知る事実だろう。彼らはオランダ・アムステルダムに籍を置くレコードレーベルで、本邦のプロト・バレアリック・グループ、Dip In The Poolやイタリアのアンビエント紳士、Gigi Masin、NY地下音楽シーンの知られざる作家、Vito Ricciといったオブスキュアなアーティスト達の作品を再発・発掘、コンパイルして、現代に呼び起こしてきた。今年にはブラジルのニューエイジ電子音楽のコンピレーションまで出た具合でその勢いは衰えるどころか勢いを増すばかりだ。その「Music From Memory」が再評価したアーティストにRoberto Musciがいる。

Roberto Musciは御年61歳のイタリア・ミラノ生まれの音楽作家、パフォーマーにしてサックス・ギタープレイヤー。1974年から1985年にかけて、フィールドレコーディング素材や楽器を収集するため、アフリカやインド、中近東に赴き、その結果、スケールやリズム、音楽制作や演奏に於いて、土着の音楽に深くインスパイアされた音楽を(プログレ・レコメン系でおなじみ)クリス・カトラー主催の「ReR Megacorp」やJim O'RourkeやFred Frithといった大物を擁するカナダの名門「Les Disques Victo」などから発表。また、80~90年代にはイタリアの国営ラジオ・ステーションの「Rai」や「Radio Popolare」などで、エスニック~電子音楽実験音楽などを発信してきたし、IBMNikeなど数多くのビデオ~コマーシャル・ミュージック、舞踊、無声映画のサウンドトラックなどを手がけ、1987年には、彼の作品『Water messages on desert sand』が英国グラミー賞にノミネートされている。共演した作家にはChris Cutler、Elliott Sharp、Keith Tippettとビッグネームが名を連ねる20世紀の巨頭の一人だ。

そんな彼の記念すべきファーストアルバムが同国の新興レーベルの「Soave」からなんと再発された。こちらはオリジナルのマスターテープから起こした80分間にも渡るコンプリート・セッション仕様で、当時未収録となったアウトテイクが全て収録されている。アフリカから中東、インドの伝統音楽の現地素材をふんだんに利用し、彼が肌で体験してきた世界中の民族音楽が高純度でブレンドされ、ハイブリッドかつ呪詛的に繰り広げられるエスノ・コンクレート作品。ブードゥー教や黒魔術にインスパイアされているようで非常に独自性極まりないドープな音楽を創造している。フリージャズからニューエイジアンビエント民族音楽といった果てしないドープネスを一手に担ったトライバル・エクスペリメンタル。今聴いても悪い意味でのダサさがまったく感じられない先鋭的なサウンドスケープに痺れるばかりだ。まさしく、音楽という人類の共通言語を霊的な次元でイノベーションしたと言っても過言ではない不朽の名作。日本では、JET SETやメディテーションズ、ディスクユニオンなどで流通している。