Second half of 2019 : Best 25 下半期ベスト

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25. Grim『Lunatic House』(Steinklang Industries)

Bandcamp / Parallax Records

小長谷淳率いる本邦リチュアル・インダストリアル最高峰、Grimがオーストリアのノイズ/インダストリアル系名門Steinklang Industriesから発表した2019年1作目のLP。尚、同年には、ドイツのTesco OrganizationからもLPをリリースしているので、そちらもレコードを購入していましたが、ベストには1作目のこちらを選出。静謐さと呪詛の間で揺らぐリチュアル・アンビエントと、扇情的でバッキバキのパワエレが約半々と絶妙な配分で収められており、Grimとしては往年のスタンダードを行く構成。酩酊・倒錯度合いはTescoからの2作目に軍配が上がりますが、統制の取れた作風となった今作の方が個人的には好みでした。活動再開後、毎年途切れることなく作品発表を重ねているGrimですが、昨年の精力的なリリースには賞賛の声を贈りましょう。

24. Shuta Yasukochi『Themes For A Better Tomorrow Vol. I 'In Full Bloom'』(VAKNAR)

Bandcamp

神奈川出身のアンビエント作家で、Lontano SeriesArchivesといったほの暗い色彩のアンビエント・レーベルにも在籍しているShuta Yasukochiが、同系統のレーベルで、øjeRumEkin Filといった人気アンビエント/ドローン・アクトも擁するベルリンのVAAGNER傘下のVAKNARから発表したカセット作品。健やかな響きを聴かせるチャイムの音色や微かに聞こえてくるギターの点描、静穏な美を香らせるフィールド・レコーディングなどを軸に、どこまでも澄み渡るようなアンビエントサウンドを届けてくれる傑作。美しいアンビエントを聴く度に思うことではあるけれど、三途の川と現世の狭間ではきっとこんな音が鳴っているんでしょう。両サイドに同内容の楽曲を収録のリピート仕様カセットなので入眠時によく聴いた、僕にとってお守りのような1本です。

23. Yosuke Tokunaga『7 Patterns』(Prepaid Records)

Bandcamp

「まるで、BurialとDJ KrushのScornの冷たいクールなカクテルだ!」とかのThe Bugにまで言わしめている東京の要注目ビートメイカー/プロデューサーのYosuke Tokunaga。2012年頃より、自身のレーベル.TOSTやCremation Lily主宰のStrange Rules、実験系ディストロのMadrigueraといったユニークなレーベルから作品の発表を重ね、特に18年以降からは精力的なリリースを続けていました。モノクロームに霞んだドープな音像の中で奇怪にモタつくリズムと電気信号のように唸るシンセ、時折のサウンド・コラージュ、ミニマリスティックなコンポジションを土台に、絶妙な配置&バランス感を発揮した黒煙ダブ/ビート・ミュージック。爆音で聴いた時の没入感が凄まじいです。ツイッターを見ると、Leaving RecordsとThe Bug、Art Into Life、Madrigueraだけをフォローしているその感じもヒジョーに好印象。

22. V.A.『Metalchemy』(Phage Tapes)

Phage Tapes / discogs

Phage Tapesの監修のもと、金属のみを音源として用いた作品を11組集コンピレーション・アルバム。"Anti Music"をスローガンに掲げ、音楽とそのフィジカル作品の両面へと全生命を費やすThe New Blockaders、80年代初頭よりベルリンにて電子音楽~インダストリアル、アヴァンギャルドな作品の数々を残してきた名ユニット、Das Synthetische Mischgewebe、アクショニズムで知られるJoke Lanzによるノイズ・パンクの英傑、Sudden Infant、ジャパノイズ大御所のK2など、錚々たるメンツを揃えた一枚。10分超えの主役級ボリュームで贈るThe New Blockadersの作中最も全開なバッキバキ加減から、リチュアルなドローンを背後に敷き、点描的に金属塊を打ち鳴らすBocksholm、内部から全てを腐食させにかかるパワエレ/ハーシュなKnurlと、どれも甲乙付け難いバツグンの仕上がり。圧倒的なスピード感と爆発力でラストを締めくくる長編では、K2と共に某プロレスラー・リスペクトなDanshoku Dinoが参加しているのも好ポイントです。

21. Grischa Lichtenberger『re: phgrp (Reworking »Consequences« by Philipp Gropper's Philm)』(Raster)

Bandcamp / Apple Music / Spotify

グリッチ~尖端電子音響の巨塔としてお馴染みのドイツのベルリンの電子音楽家、ヴィジュアル/インスタレーション・アーティスト、Grischa Lichtenberger。同じくドイツのアヴァンギャルド/コンテンポラリー・ジャズ・グループ、Philipp Gropper's PhilmがWePlayJazzから発表した19年作「Consequences」をリワークした最新作。リリース元は、お馴染みRASTER-NOTONから分離した"RASTER"。彼の作品の中でも一際生々しく異質な作風。グリッチでバキバキにこねくり回すような持ち味の尖端なサウンドからは大きく離れ、彼なりに"ジャズ"を解釈しようと試みています。ツイートでも書いたように、Ricardo Villalobos「Re:ECM」やVilodがManaから発表した昨年の新作が好きな人にも薦められる一枚です。電子音楽とジャズの境目を曖昧にさせるオーガニックな即興演奏、いびつにモタつくリズムと不明瞭なストラクチャーが異世界を生み出したスルメ盤

20. Scott Gailey『Polysensuality』(Seance Centre)

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Yu SuやRegularfantasyといったカナダ産フローティン・ハウス脈とのコラボレーションや、ブルックリンの名門エクスペリメンタル・ミュージック・レーベルであるRVNGの3本組カセット・コンピ「Peaceful Protest」への参加でも知られるScott Gaileyのファースト・アルバム。リリース元は、カナダのMusic From Memory的立ち位置として不動の支持を得つつある気鋭レーベル、Seance Centre。太平洋岸の熱帯雨林の奥深くにあるキャビンで発見されたマリー・シェーファーサウンドスケープの提唱者)の著書「The Tuning of the World」からインスパイアされた作品。大胆に香らせた大海原の自然美、エキゾな魅力たっぷりと透明に漂う静穏なアンビエンス。よどみひとつないミスティックなタッチで、幻想的なシンセや木管などの様々なエレメントがシミュレートする天界模様のサウンドスケープ。Sugai Kenのコラージュ観とVisible Cloaksのサウンドシンセシス、80年代日本の環境音楽/アンビエントが溶け合ったかのような傑作。


19. Sa Pa『In A Landscape』(Mana)
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British Library Sound ArchiveのキュレーターであるAndrea Zarzaと、Blowing Up The Workshopの創設者、Matthew Kentによって設立。デーモン・アルバーンも共同出資している名門Honest Jons流通のもとLuc FerrariやNicolas Jaarなどをリリースしている英国の名所Manaより、Marcel DettmannやFelix K等とアンビエント・グループ、Rauchを組んでいたSa Paによる4年振りの最新作。森林の静謐さを感じさせるフィルレコ素材や少し不穏なコラージュ音声などを混ぜ込みながら、Basic Channel ~ Huerco S影響下のトライバル・ダブ・アンビエント/ディープ・テクノを披露。ほの暗く湿度の濃い奥地の森をさ迷い歩くようなミステリアス&シックな世界観が全面にわたって貫かれており、恐るべき没入度の一作に仕上がりました。昨今、大人気なHuerco S主宰のWest Mineralのファンにも薦めておきたい傑作。

18. Sean McCann『Puck』(Recital)

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モダン・クラシカルからドローン、アンビエント実験音楽を横断し、白昼夢とうつつの境を漂うような幻想ドローン・アンビエント・スケープを届けてきたカリフォルニアの名作家Sean McCann。自身のレーベルであるRecitalから発表した最新アルバムで、2000年代後半から直近までの音源を収録した氏の集大成的一枚。サウンド・スケープものとしてもバツグンの出来でひとたび針を下ろせば、風景が眼前に見えてくるかのよう。本作には、時期の違う4つの楽曲が収められており、どれも非常に作風が近いものに統一されています。テン年代ラスト、2019年最後にリリースした作品だけあって、長年温めた一枚なのでしょうか。教会音楽からスクリューされたオペラの声といったコラージュ、アンビエント・ドローン、室内楽までもが溶け合い、規格外に神秘的な色彩を香らせます。これぞ、USアンビエント/ドローンの器量!

17. Pontiac Streator & Ulla Straus『11 Items』(West Mineral)

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Huerco S変名のPendantや音響アンビエントの気鋭、uon等、発足当初から早くもヒットを飛ばしてきたHuerco Sによる新レーベル、West Mineralからの19年下半期の大作。ともにLillerne Tape Clubに作品を残す大変ミステリアスなアーティスト、Pontiac StreatorとUlla Straus (Quiet Time Tapesから出た二本組カセットは上半期ベストに選んだ)のコラボ作品の第二弾。このレーベル、エクスペリメンタル界隈で昨今最も注目を集めていると言っても過言ではないと思いますが、このリリースも突出して強力。ふわふわとただよう幻想的なタッチの合成音声、打ち込みか生音かも曖昧なトライバルなビートや第4世界風のシンセなども取り込みながら、薄い膜のごとく透明&繊細なアンビエンスが白昼夢描き出して止まないニューエイジ/アンビエント傑作。自然とミステリアスな聖地感までも演出したグッド・ヴァイブスな作品で、どこまでも潜っていける包容力があります。名アンビエント・コンピ「Mono No Aware」「bblisss」の世界観が好きな人にもオススメ。

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16. Akhira Sano『Kalo』(Sun Ark)

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H.TakahashiやRhucle、Ultrafog、Meiteiなどを始めとし、海外のエクスペリメンタル・レーベルにも名を連ねる新世代の邦人アンビエント・アクトが日本各地に増えつつあるように感じますが、またしても注目の新星が登場。混沌としたトロピカル・ミュージック ~ ダブ ~ アンビエント/ニューエイジを横断する暗黒魔術師Sun Araw主宰のSun Ark Recordsから突如現れた日本人アンビエント作家、Akhira Sano。High WolfやCloaks(Visible Cloaks)、Wanda Group、Foodmanといった錚々たる面子が揃うSun Arkからのリリースということでちょっと驚きましたが、この人、1月には、東京のレーベル、Nitrous Oxide SystemsよりTomidokoro a.k.a. DJ Trash Head名義でジューク作品なんかも発表していたりとミステリアスな存在ながら引き出しの広さも窺えます。鐘やベルの音から派生するパルス音や、点描されるクリスタルなシンセ、独特の音響的アプローチを主軸とした瞑想的アンビエント。時折、エクスペリメンタル&ダブに歪む抽象的なノイズなども織り込みながら、聴き手の精神を高度な没入へと向かわせてくれます。

15. MinaeMinae『Variante』(Human Pitch)

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「Visible Cloaks meets Ramzi & Four Tetな万華鏡音楽世界!」と勤務先のポップに書きましたけど、まさにそんな心象風景を思い起こさせてくれカラフルな音楽!ドイツは、シュトゥットガルト拠点のマルチメディア・アーティスト&プロデューサー、MinaeMinaeのデビュー・アルバム。リリース元は、同じくマルチメディア・アーティストのRiouxことTristan Arpと、The Lot RadioでレジデントDJを務めるBrandon Sanchezの2名が主催するNYの気鋭レーベルHuman Pitch。非西洋世界であるインドを初めて訪れた際の体験から触発された作品。既存の知識だけでは反映しきれなかったインドの世界観を、子どものように「無垢な瞳」(“the innocent eye”)を通して捉えようと試みた作品。尚、この「無垢な瞳」とは、ビクトリア朝時代の芸術評論家のJohn Ruskinよる造語であり、彼の著書「Elements of Drawing」(1857)で提唱。本作では、多様な木管楽器をシミュレート。東洋から西洋の民俗音楽までもが渾然一体となった異質なフォークロアと、レフトフィールドなダンス・ミュージック、近年再興の波へとあったニューエイジ/アンビエントポリリズムまでをもミックスし、まさに万華鏡景色な奇跡的世界観を描き出してやみません。独特のリズムのもつれやポリリズムが抜群に心地いいです。

 

14. Gigi Masin & Jonny Nash『Postcards From Nowhere』(Melody As Truth)

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Music From Memoryによる一大編集作業でニューエイジ再発ブームの火付け役となったイタリアのベテラン・アンビエント・マスターGigi Masinと、バレアリック&ニューエイジの一大聖地、Melody As Truthを運営している名作家、Jonny Nashが、Gaussian Curveでのコラボに続く形で、新たに共作した一枚。本作は、各国取り扱い店舗限定のリリースで、限定500枚がプレス。ベニス・ビエンナーレで開催されたXavier Veilhanによるインスタレーション「Studio Venezia」にて行われた2017年のセッションをもとにフランス館をパビリオンごとスタジオとして即興作曲されたピアノとギターのためのオリジナル録音を6曲収録。環境やマイク技術などの音響面にも相当凝っているようで、その音は淡く、どこまでももどこまでも澄み渡ります。まるで、The Durutti Columnと日本の環境音楽、ポスト・クラシカル、バレアリックが溶け合ったような可憐な音。この2人が出逢うとこうなることは初めから決まっていたのでしょう。日本的な引きの美さえも感じさせる幽玄なギターとピアノによる演奏が、淡々と幻想世界へと聴き手を導きます。天上突破とも言うべき圧巻のパフォーマンス。是非ともレコードの彫りの深い音で聴いて戴きたい一枚です。

13. The Gritness Acoustronics『Mahakali - The Music of Don Cherry』(Komos)

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シンセサイザーで織りなす次世代スピリチュアル・ジャズの傑作。現代ジャズ + アフロ・グルーヴの新たなる火種として要注目株なフランスの新世代ジャズ・シーンに切り込む新レーベルKOMOSから発表された作品。Hypercolourからもエレクトロ作品をリリースしているGary Gritness(synth)、Olivier Portal(synth,key)、Vincent Thekal(sax)らによるエレクトロ・ファンク・トリオ、The Gritness Acoustronicsの最新アルバム。本作は、70年代後半のドン・チェリーをアナログ・シンセとサックス、アナログ・ドラム・マシンで再解釈したという画期的な一枚で、2018年11月にパリの音楽スタジオ”Studio Pigalle”にて、ライブ・セッション一発録音。また、マリ共和国リュート撥弦楽器「コラ」の巨匠、Ballake Sissokoをゲストにフィーチャー。執拗に反復されるアナログ・シンセによる強靭なリズム、神々しくたたずむホーン・セクションと、「コラ」によるスピリチュアルな響きが異質すぎる世界観を育んだ傑作です。アフリカ・バンバータもビックリなその音楽性は、シンセ・ファンク+マリ民族音楽スピリチュアル・ジャズによるアフロ&コスミッシェ・グルーヴとも言うべき恐るべき音場へと収束されていく。

12. Shapednoise『Aesthesis』(Numbers)

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テン年代に記録される尖端音楽の一大聖地的名レーベルであり、Mika Vainio周辺人脈やThe BugことKevin Richard Martinも参加するKing Midas SoundもリリースしているCosmo Rhythmaticを運営、尖端シーンの最前線を突っ走り続けるイタリアのポスト・インダストリアル最重要アクト、Shapednoiseの4年ぶりのフル・アルバム。意外にも最新作はNumbersからのリリースでビックリ。ゲストも界隈的には違和感ないものの何かと不思議な人選で、Deconstructed Club脈からはMhysaとRabit、そして、CoilやPsychic TVのメンバーでもあったベテラン、Drew McDowallまでもフィーチャリングするなど、かなり謎なゾーン。ジャケット・アートワークは随分と彼っぽくはないものの、持ち前のバイオレンスな音楽性は未だに健在どころか迫力をさらに増し、飛び跳ねる金属塊のごとし超凶悪なサウンド・デザインや、悪夢のようにスリリングな持ち前の展開力はよりハードに洗練。まさにノイズ ~ ポスト・インダストリアル、ドゥーム・メタル、レイヴ、ハードコアのハイブリッド。爆音での再生を推奨とのことですがそれも当然でしょう。

11. Lorenzo Feliciati『Antikythera』(RareNoiseRecords)

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King Crimsonの一員、Pat Mastelottoとはエクスペリメンタル・ジャズ・ロック・グループ、MumpbeakNaked Truthにて共謀、Radioheadともよく比較される名プログレ・バンドPorcupine TreeのColin EdwinとはデュオTwinscapesでも活動している、いま一番多忙なイタリア人ベーシストLorenzo Feliciati、そして、Giancarlo SchiaffiniStefano Battagliaといった同国の名ジャズ・プレイヤーとも共演するパーカッショニスト、Michele Rabbiaによるコラボ作。Alessandro GwisやRita Marcotulli、Cuong Vuといった著名な奏者を迎えた豪華編成。実に2年間にわたって行われた共同スタジオ・セッションの成果と言えるアルバムで、壮大なインプロヴィゼーションサウンドスケープを記録。ジャケットへと抱く印象通り、底知れず深く磨かれた音が無尽蔵に滲み出てきます。小宇宙を描いて冴えるミニムーグの響き、ミステリアスに打鍵されるフェンダーローズ、今にも第四世界の息吹が聴こえて来そうなホーン・セクション、煙たくひずみながら点描されるフレットレス・ベース。ジャンルもスタイルもボーダーレスに横断してきた面々による一作だけあって、ジャズという枠組みにも囚われることなく、ひたすら自由で宇宙的なサウンドを織り上げていく様子は圧巻のひとことです。

10. Gianluca Becuzzi『The Bunker Years (2006-2014)』(St.An.Da.)

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最果ての地峡もしくは彼岸で奏でられる音とはこうした物なのかもしれません。80年代前半を起点に、長きに渡って音楽活動を繰り広げ、Kirlian CameraLimboを始めとした数々の名プロジェクトにも参加してきた伊の電子音楽家/エレクトロ・アコースティック作家、Gianluca Becuzzi。昨年は、DeisonやAdriano Zanniといった作家らとのコラボ作品も数多く自主リリースしていましたが、イタリアの実験系老舗Silentesのサブレーベル、St.An.Da.から発表された本作は19年唯一の同氏によるソロ作品。外敵から身を守る用途で戦時中に作られた軍事建築物/シェルター「バンカー」で制作されたエレクトロ・アコースティック作品「The Bunker Years (2006-2014) 」。表題通り、06年から14年に制作された音源が纏められています。全ての「バンカーの人々」へと捧げられた作品で、戦時中にこの空間で果てることとなった人々への追悼の念のみならず、自身が長年スタジオとして用いてきた「バンカー」本来の意味をも意図的に解釈。その音場は、徹底的にミニマルなアプローチ、奥行きとテクスチャーを追求したハードコアなノイズ・サウンドを披露。この研ぎ澄まされた音場は爆音で浴びるほかないでしょう。こうした深く鋭利な音への愛着は個人的にも深く、非常に楽しんで味わえた一枚です。

9. Giant Swan『Giant Swan』(KECK)

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Massive Attack ~ Young Echo、Bokeh Versionsに連なる自由で実験的な音楽に象徴される"ブリストルサウンド"の先鋭、Robin StewartとHarry Wrightの2名から構成されるデュオ、Giant Swan。これまでに、FuckPunkやMannequin Records、Whities、Haunter Recordsなどといったレフトフィールド・ダンス ~ エクスペリメンタル系のレーベルからリリースを重ね、昨年遂に待望のデビュー・アルバムを自身のレーベル、KECKより発表。「My Bloody ValentineLightning Boltサウンドシステムの上で出会ったら?」というような煽り文句も見ましたが、エレクトロニック・ミュージックからパンク、ポスト・インダストリアル、レイヴまでも一手に引き受けたような先鋭的な音楽性を軸に、アジテーション溢れるカットアップ・ヴォイスや歪みきったギター、ヒプノティックなベース等を絡ませた彼らのサウンドは残忍でアグレッシヴ。それでいて、一貫して、文化の平等性、快楽と継続、批評に基づいた包括的なクラブ環境の必要性を強調し続けている、というのだから、なおさら魅力的に映る存在です。OssiaやSam Kidelなど、Young Echo周辺や、Bokeh VersionsNo CornerFuckPunkといったレーベル群など、ブリストルの現行系のシーンも踏まえて、今後もしっかりと注視したいところですね。

8. Carlo Giustini『Custodi』(Lontano Series)

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ジャケット・アートワークからして一発で買いだった一枚。Lontano SeriesやNo Rent Recordsなどからのリリースで気になっていたイタリアの新鋭フィルレコ + アンビエントな新鋭作家、Carlo Giustini、まさかもうここまでの金字塔を作り上げてくるとは思いもよりませんでした。本作は、ウォークマンと一台のマイクロカセット・テープレコーダーで録音されたというフィールド・レコーディング素材を用いて制作。中でも4曲目の" La Sala Più A Nord"は、自宅キッチンでの自身の動きと、イタリア北部ジェノヴァにある庭園でのフィルレコのみで構築されているという。20年代のSP盤にアンビエントを録音したらこんな音風景を刻んだかもしれません。息づく自然や水面のダイナミズム、はるか遠い記憶、かつてそこに在った何か、底知れずセンチメンタルな心象風景へと彩られる極上のアンビエント。もし、Andrew Chalkと初期のGrouperのバッキング・ミュージックが出逢ったら、というような願望を叶えてくれます。ジャケのイメージ通り、彼岸の奏のような、凄まじい霊性を覚える音楽。随所にちりばめられたトーンやオクターブを体感するために高いボリュームでの再生を推奨とのこと。どこまでも儚い音ながら、蒼く、優しく、温かく、どこまでも聴き手を包み込む不思議な力がここに。

7. Shorelights『AI-16: Bioluminescence』(Astral Industries)

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潮の干満と月の運行を組み合わせた「タイドテーブル」を基本として、24時間高音質な環境音を絶え間なく放送していた日本衛星デジタル音楽放送、St. Giga用(大赤字で終了)に制作された1995年ニューエイジ超傑作「Lunar Phase」でも知られるダブテクノ/アンビエントの一大聖地Astral Industries。ダブテクノの一大金字塔的大傑作「Liumin」を産み落としたDeepchordことRod Modell、Echospace一派のChris McNamara、ヴィジュアル・アーティストのWalter Wasaczよる新プロジェクト、Shorelightsが同レーベルより発表したデビュー作。珊瑚礁の呼吸が今にも聞こえるような海洋性のフィルレコ素材を背景に、分厚いアンビエント・ドローンの波がどこまでも広がる傑作サウンドスケープ。神々しく育まれるアンビエンスと持続音が半永久的にループ、そこには母体回帰やグリーフワークを思わせるほどの深さを感じます。常にここではないどこかへと向かおうとする上昇意識の波の中で、ひとたび腰を下ろす場所を選ぶことが出来るとしたら、ここ以外にないのかもしれません。できることなら果てるまでこの安らぎの中に包まっていたいとさえ思います。しかし、いつでもここに帰ってくることもできる。日々の焦燥や寂寞を全て残らず抱き留めてくれるような、稀有な包容力をはなつ一枚。

6. OCA『Aging』(Métron Records)

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下半期ベスト・ニューエイジ。プロデューサー/ミュージシャンのYo van Lenzとアーティスト、Florian T M Zeisigによるベルリンのデュオであり、2018年には、次世代アンビエント/ニューエイジの一大聖地Constellation Tatsuからカセット・デビューしていたOCAの最新カセット作品。リリース元は、Meiteiの「Komachi」やニューヨーク中華街の人気デュオGeorgiaも擁するベルリンの新興レーベルであるMétron Records。メンバーはそれぞれ個人や別のグループの一員としても活動、まず、片方のFlorian T M ZeisigはスペインのAnòmiaやImportant Records傘下のCassaunaといったカセット・レーベルからリリースがあり、Yo van Lenzに関しては、プロデューサーのSarah Farinaとのコラボ曲"Peace Dub"がModeselektorのミックス作品「Modeselektion Vol. 04 / #2」に収録された経歴も。Alesis QS6 シンセサイザーのみを用いて制作されたメロディを主体としており、神々しく揺れる合成音声やドラムマシンによる打ち込みのビート、アルペジエイターのミニマルな反復によって点描されるアンビエンスなどが天井突破な音風景を描きます。底抜けに美しい光沢をはなつ一作ですが、即興的に淡々と音を書き足していく様子は非常にシンプル。しかし、相当試行錯誤を繰り返したのでしょう、点描されるメロディは予定調和のように可憐な音場を築き上げています。80年代の日本産環境音楽より香る静寂、そして、生成的なソフトウェアとアコースティックの境界線さえも揺らがせながら、音と空間の在り方さえも塗り替えたVisible Cloaksの昨年作「FRKWYS Vol. 15: Serenitatem」の狭間で凛とたたずむ金字塔的傑作アンビエント

5. Blue Tomorrows『Without Color』(Moon Glyph)

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D/P/I名義でも広く知られた名アーティストAlex GreyことDeep Magicやトライバル・パーカッションの伝道師、Corum率いるMillion Braziliansなどを始め、オブスキュアすぎる曲者アクトの数々を揃え、インディからサイケ、ニューエイジ、エクスペリメンタルまで幅広いカタログを誇るポートランドの地下要所、Moon Glyph。ここ数年間ほどちょくちょくチェックしていましたが、未だに名前の覚えられないようなマニアックなアーティストばかりをリリースしていて、数年前のカセット・ブーム時代からブレないその人選が大変ユニークですが、今回一目惚れしたのは久々にインディ系のアクト。長年、ヴォーカル/ギタリスト/ベーシストとして様々なバンドを渡り歩き、ドリーム・ポップ/シューゲイズ・バンドであるCandaceと、サイケデリック・フォーク・グループのWeb of Sunsetsでも活動していた女性ミュージシャンSarah Nienaberによる新ユニット、Blue Tomorrowsのデビュー・カセット作品。ポートランドにある自宅の地下スタジオで録音された宅録音源集。CandaceのバンドメイトであったSarah Roseを始めとしたゲストが参加した幾つかの楽曲を除くと、大部分がNienaberによるワンマン・バンド的な編成。要所に散りばめたシンセ、ドラムマシンのほんの少しチープな反復とヘイジーなギターの照れ隠しのような調べにのせて、凛として可憐なヴォーカル・ワークが炸裂。いつどんなタイミングで聴いてもエヴァーグリーンに心を彩る、知られざるドリーム・ポップの金字塔。まるで、遠い日の約束の場所から舞い込んでくる涼風のよう。限定部数のカセットが未だに完売していないのがなんといっても惜しいところです。気に入ったら是非とも買ってあげてください。

4. Satanique Samba Trio『Mais Bad』(Rebel Up Records)

Bandcamp

ブラジルは首都ブラジリアを拠点に活動しているエクスペリメンタル・クインテットであり、ブラジルの伝統的なリズムとパンクやフリー・ジャズの美学を混ぜ合わせた独自のサウンドを織り上げるプログレッシヴなバンド、Satanique Samba Trioの2年ぶりのリリース。本作は、1分 ~ 2分ちょっとという非常に短い楽曲が10曲ほど連なるミニアルバムで、かなりコンパクトなボリュームの作品。かねてより、バトゥカーダやマスロック、ラテン・ジャズなど非常に多様なアプローチを取り入れたヘンテコな音楽性で着々とファンを獲得していましたが、今作でも、ブラジル北東部のダンス音楽のフォホーやサンバ、パンク、フリー・ジャズ、エクスペリメンタルといった異なる要素要素を織り交ぜ、カテゴライズを徹底的に拒否するかのような底無しの創造性が炸裂。それぞれ個性の異なるショートトラックが怒涛の勢いで過ぎ去る様は圧巻。大道芸のように豪快かつ器用なパーカッション、民俗楽器のカヴァキーニョクラリネット、エレキ・ベースなどによって壮絶なインプロヴィゼーションを練り上げ、国籍やジャンルも遥かに超えたエクスペリメンタル・バンド・サウンドを展開。民族音楽や現代的なロックともつかないナンともビザールな音楽性ですが、僕にとってはバッキバキに歪んだ、このサウンドの「重たさ」と「煙たさ」が何よりも心地よく響きます。00年代初頭に作られた安物の携帯電話での録音という超ローファイな音響もおもしろい。先ず、音楽にとってアイデアは命だなぁと改めて痛感させられた1枚でした。

3. Pedro Kastelijns『Som das Luzis』(OAR)

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「久々にBandcampで新着掘ってたら凄いの見つけた。マジで凄い。」みたいな感じでツイートしたら100RT/1000いいね(今のところこれまでの人生で最大)も拡散されてしまって腰を抜かすことになったブラジル出身アムステルダム拠点の要注目ミュージシャン、Pedro Kastelijnsによる2年ぶりの最新アルバム。Bandcampでは、昨年12月6日付けの"Album of the Day"に選出されています。15歳のとき、幼少期から成人期へと移行するにつれ感じ始めた世界の重みを克服する為に音楽を作り始めたというこの人、初めは音楽を通して、さらにはドローイングを通して自身の中へと「アーティスト」を発見していくこととなり制作へと駆り立てられていきます。そんなペドロの音楽ですが、ほぼ全曲作詞作曲・演奏・録音までも全て自分でこなしてしまう宅録ワンマン・スタジオな様子には、偉才Jacob Collierの姿さえも頭をよぎるところです。その演奏スタイルは異常にかけたリヴァーヴに包み込まれたヴォーカル・ワークとダウナー気味なサイケデリック・ギター、無数にレイヤードされた多重録音によるアンサンブルから構成。サイケデリックにひずむそんな音響の中で、ドリーム・ポップから、往年のローファイ・インディ、ネオ・サイケ、ソウル、ボサノバ、ジャズ、コラージュ・ミュージックといった多様な要素が混淆し、度を超えて個性的な世界観へと深化。そこまで難しいことはしてないはずですが、ここまで変態的に仕上げてしまえるこの人の頭の中が見てみたいものです。既に10年は飛び越えて、2030年代標準のサイケデリアにさえも達しているような破格の音。このままマンネリにならずに次作でさらに化けることができたらガチのワールドワイド・ミュージシャンになってくれるんじゃないかと思います。

2. Directorsound『This Side of Summer』(Tona Serenad)

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2001年にThe PastelsのレーベルであるGeographicから発表したデビュー作「Redemptive Strikes」にて一躍人気を獲得することとなったイギリスの一人宅録オーケストラな才人、ロンドン在住のマルチ奏者Nick Palmerによるソロ・プロジェクト、Diretorsound。実に3年ぶりとなる最新作。2010年にリリースされた「Two Years Today」をたまたま地元のブックオフで見かけて試聴した時はその良さが分からず、棚に戻してしまったものですが、新作は偶然リリース告知を見て奇跡的にその存在を思い出し無事に邂逅を果たすことができました。日本国内のみでCD化もなされた作品です。前述の「Two Years Today」でも共演していた盟友のIan Holfordもパーカッションで参加。蓋を開けてみれば澄み渡るアコースティック・インストゥルメンツたちのナンとも美しいこと... 2016年に生まれた自身の子どものために制作された作品で、寝ている我が子を起こさせないように、2年の月日をかけながら夜な夜な録音していたという実に愛情深いエピソードが素晴らしい一枚。父の愛にあふれた素朴で温かなタッチ、それと同時に、子どもの誕生に対する複雑な感情も哀愁として忍ばせており、父親としての葛藤を垣間見ることもできるでしょう。ギターやピアノ、アコーディオンウクレレ、ツィター、ブズーキといった多種多様な楽器を携え、ハワイアンからエキゾチカ、イージーリスニング、フォーク、ポスト・クラシカル、果てには、Windham Hillの音楽までも溶け合わせたような可憐なサウンドに仕上がっています。音の柔和さや温かみもさることながら突き抜けてハイブリッドな仕上がり。どこまでも蒼さの海へと潜れるような、無限の包容力を感じる傑作。遠い日の記憶さえも鮮明に蘇ってくる、明日の日を生きる人のための子守唄。去年はウォークマンに入れて、晴れの日の海辺で感傷に浸りながら聴いたものでした。人を選ばない作品だと思うので、是非とも多くの人に聴かれて欲しいものです。

1. Lena Raine『Celeste: Farewell (Original Soundtrack)』(Materia Collective)

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この愛くるしいジャケット、どこまでも最高!個人的2019年アートワーク金獅子賞!「BAFTA」(英国映画テレビ芸術アカデミー)賞にもノミネートされている女性アーティストで、Kuraine名義でもエレクトロニック・ミュージック作品を発表してきたLena Raineが、大人気アクション・ゲーム「Celeste」セレステ)の無料ダウンロード・コンテンツ"Farewell"のために制作したオリジナル・サウンドトラック。ご存知の人多いと思いますが、元々、Lena Raineは「セレステ」本編のためのOSTも書いており、2018年にリリースされていた同作はBandcamp上で爆発的なセールスを記録していました。当時、それをBandcampの人気リリース・ランキングで発見してから気になっていましたが、去年になってこちらのジャケットに一目惚れする形でカセットを購入。こんな愛おしいジャケットもそうはないでしょう。本作は、OSTという性質通り、非常にバラエティに富んだ楽曲群が収められ、ステージ順に並んでるのかどうかは知らないのですが、聴き手をいっさい飽きさせない構成になっています。まず、1曲目の"The Empty Space Above"のスピリチュアルなニューエイジ・ヴァイヴスにグッと引き込まれ、現代ジャズ + ポスト・クラシカル + アンビエントな2曲目の"Fear of the Unknown"で心より震え、疾走感抜群なアンビエント・クラシカルの6曲目"Beyond the Heart"で全能感あふれ、五感までをも研ぎ澄まされ、10曲目の"Farewell"辺りでもう完全に異次元へと飛ばされました。一目惚れなジャケットへの個人的な愛慕がひたすら深いというプラシーボも大いにあるかもしれませんが、ゲームとは別の意味での没入体験を存分に味わうことができたという意味でも昨年下半期のベスト・ミュージックとしてふさわしいです。シンセサイザーによるアンビエントサウンドを主軸に描いた作品としても余りある完成度&強度だと思います。しかし、ゲームというものも、稀に友人が部屋に遊びに来たときに、たまに20年選手のゲームキューブを引っ張り出してスマブラDXカービィのエアライドをやるくらいで最近めっきりプレイしてなくて、今作のレビューを書くことには申し訳なさすらあります。プレイしないというのも信条があって、高校の頃、モバゲーやmixiなどでのソシャゲにハマって、朝起きた時から登校中、授業中、帰り道、寝る前と定期的にクエストとかをこなすために疲弊したり、何よりも高校受験の際、「大戦略 大東亜興亡史 ~トラ・トラ・トラ ワレ奇襲ニ成功セリ」とかいうコマを動かして育成するだけのゲームにハマりすぎて、志望の高校に行けなかった苦い記憶もあるので、ソシャゲ含め、ゲームは徹底的に遠ざけていました。僕は何事も程々にという器用さがないのでどっぷりハマって帰って来れなくなることは目に見えていますから。それでも、こんなワクワクする音楽をゲーマーたちは聴いているんだなーと思ったらなんか久しぶりに興味が湧いてきました。ニンテンドースイッチとか買ってみようかな。なんて不覚にも思ってしまった2010年代最後の年でした。そんなこんなで今年も頑張りますが、長々と閲覧ありがとうございました!