ヒーリング・ミュージックの進化と叛逆〜テン年代ニューエイジ・リバイバルは如何にして発生したか〜

最近、柴崎裕二氏のブログ記事である「<ニューエイジ>復権とは一体なんなのか」と、同氏によるele-kingでのTakao「Stealth」のレビュー、そして、動物𝓛𝓸𝓿𝓮知识𝛃𝛐𝛕氏noteでの様々な記事、ショコラ氏の翻訳された「日本のアンビエントミュージックはどのようにして新しいオーディエンスと出会ったのか」などに触発され、今回、テン年代ニューエイジ復権について、その過程と思われる事柄について、自分の知る限りのインフォメーションをまとめておこうと思い至った。上記の三人の記事と被る部分もあると思うし、ここに至るまでの様々な事象と現実のリバイバルの関連性について、実際にシーン全体を理解/把握して、精査することは人間の手では難しいが、まず、2019年に入ってからのニューエイジリバイバルにまつわる出来事から紹介していこう。そのビッグバンとなったと言って過言ではないテン年代ニューエイジリバイバル史に於ける最重要の事柄がこちらだ。今年に入って、韓国における「ロックのゴッドファーザー」と呼ばれたShin Joong Hyunやアメリカのフォーク・ブルース・シンガーであるKaren Daltonなどを始め、枚挙すればいとまが無いほどの名作を発掘してきたシアトルの名門レーベルである<Light In The Attic>から日本の「環境音楽」にフォーカスを当てた画期的なコンピレーション・アルバムである「Kankyō Ongaku Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990」が2月15日にデジタル/2CD/3LPの三媒体でリリースされた。

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V/A - Kankyō Ongaku「Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990」 

2019年の最重要編集盤と言って差し支えのないこのコンピレーションには、吉村弘、芦川聡、久石譲日向敏文清水靖晃細野晴臣坂本龍一、松竹秀樹、イノヤマランドといったYMOの周辺や、Far East Family Bandの伊藤詳や宮下富実夫などを始めとした日本のアンビエントニューエイジ環境音楽に於ける恐ろしいほどの陣容が納められている。このコンピレーションをコンパイルしたのは、Visible CloaksのSpencer Doran、日本人スタッフのYosuke Kitazawa、共同主催者のMatt Sullivanであり、スペンサーはそのライナーノーツも担当している。彼はOneohtrix Point Neverにも引けを取らない、テン年代随一のニューエイジ作家としても知られるが、レーベル<Empire of Signs>も共同主宰し、吉村弘のファースト・アルバムである「Music For Nine Postcards」を2017年に再発、話題を呼んだ。

また、2017年のアルバム「Reassemblage」(ルアッサンブラージュ)は国内流通盤もリリースされ、日本でも大きな話題を呼んでいる、新世代ニューエイジの旗手、Visible Cloaksと、共に日本の環境音楽の草分け的作家、吉村弘との関わりを持つ作家の、尾島由郎と柴野さつきの3名によるコラボレーション作品であり、80年代から10年代を挟んだ新旧の重要なニューエイジャーたちが邂逅した歴史的作品と言える「FRKWYS Vol. 15: Serenitatem」も、Matthew Werthによって運営されているブルックリンの名レーベルであり、ジュリア・ホルター、ホーリー・ハーダン、ジュリアナ・バーウィックなどを始めとした名作家の作品を数多く発信してきたエクスペリメンタル・ミュージックの聖地<RVNG>から4月5日にリリース(一部の国内の店舗では既に流通している)。

そして、discogsからの確証のない情報ではあるが、高田みどりの「鏡の向こう側」(1983)の再発(同年のVisible Cloaksの「Reassemblage」と並んでこれもビッグバンと言える)で大きなヒットを飛ばしたスイスの<WRWTFWW Records>は昨年、大企業ミサワ・ホームが運営していたアンビエント・レーベル、<Misawa Home>に作品を残す名作家、広瀬豊の「Soundscape 2: Nova」(1986)と前述の尾島由郎の「Une Collection Des Chainons I: Music For Spiral」(1988)のテスト・プレス盤を製作しており、これら国産ニューエイジ/アンビエントの重要作が今後再発される可能性もある。

昨今、このような重要作品のリリース案件が相次ぎ、日に日にニューエイジリバイバルにかけられる熱量は増大している。dublab.jpでは、サウンド・アーティスト、小野寺唯による日本の環境音楽に焦点を当てた新番組「Japanese Ambient Journey」も3/6に始まった。昨年も小久保隆や矢吹紫帆、イノヤマランド、セキトオ・シゲオ、ムクワジュ・アンサンブルなど、このジャンルに関連する国内の作家の重要作が再発されている。個人的に、自分の働く輸入レコード店で実際にこれらの作品に触れ、国内に流通させてきた身としても最近ひしひしと感じるのは、テン年代ラストの2019年に至って、ニューエイジリバイバルが一つの「頂点」を迎えつつあるのではないかということである。これらのムーブメントが今後どのように展開していくかは、半業界人の自分としてもイマイチ読み切れないところはあるが、手元のニューエイジ系の作品の新譜や再発のリリース量は落ち込んでいるようには感じないし、2017年頃からのここ2年、特にヴァイナルでの扱いは僕の働く店でも増え続けているのは確かだ。そこで実際に、「テン年代」に於けるニューエイジリバイバルへと至るまでの流れを見ていこう。

  • 1. 「海外のレコード・ディガーが発信する、blogspotを中心とした音楽ブログに於けるニューエイジ/アンビエント・ミュージックの違法アップロード」

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「RAR」検索などかけない、そもそも違法ダウンロードなどしないという人には意識外のことだと思うが、もちろんのこと広大なインターネット上には、数多くの違法アップロード作品が存在しており、アルバム単位でダウンロード出来てしまう現実がある。常日頃、警察機関や法的機関、著作権団体との激しい争いの数々が繰り広げられているが、こうした違法アップロードはいつまでも無くなりそうも無い。しかし、彼らがアップロードしてきた作品は伝播し、作家への利潤は無くとも、皮肉なことに世界中に個々のアーティストを知らしめる宣伝媒体としても機能している。こんな言わずとも当然のことはさておき、00年代に興隆を見たブログ・カルチャーは、以前ほどの勢いは無いもののテン年代の現代でも機能し、一つのジャンルに特化した、ある種「メディア」的ですらある違法アップロード・ブログも数多く存在するようになってきている。もちろん、これらのサイトの中には、ニューエイジアンビエント・ミュージックを数多くアップロードするようなブログも存在していた。

幾つか名前を挙げていくが、<Growing Bin>や<Listen To This>、<Fond/Sound>、<Box Of Toys>、<Sounds Of The Dawn>、<Root Strata>、<Mutant Sounds>などの功績はかなり大きいと思われる。それぞれ、様々なジャンルをアップロードしていることもあり、必ずしもニューエイジアンビエントにフォーカスしたブログでは無いかもしれないが、今挙げた多くはかなりそうした色彩が強くなっているところが多い。しかも、そのうち、<Root Strata>と<Growing Bin>、<Box Of Toys>、<Sounds Of The Dawn>はのちにレーベルまでスタートさせており、そのどれもが現行のニューエイジ・ミュージック・レーベルの中でも重鎮に属している。

早速紹介していくが、特に、<Listen To This>と<Fond/Sound>、<Sounds Of The Dawn>が紹介したニューエイジ作品は、かなり網羅的になっており、中でも、<Listen To This>は、重要度が高く、Michael Stearnsや吉村弘、モーガン・フィッシャー、日向敏文、ヴァージニア・アシュトレイ、Laraaji、Beverly Glenn Copeland、Joanna Broukなど、ニューエイジに於ける有名作家の重要なレア作品のアップロードに始まり、<Sanpo Disco><NTS Radio>へもミックスを提供しているほか、矢野顕子やSuzanne Ciani、Pauline Anna Stromなどのインタビューまで公開するという気合いの入りよう。重複していることもあるが、このサイトのニューエイジ関連のタグ別に見ると、現在「Ambient」は100、「New Age」は67、「4th world」(ジョン・ハッセルの提唱した第四世界のこと)は16、「Balearic」は16となっており、オリジナルは再発されてすらいないような、マニアックな作品がずらりと並ぶ。恐らく、海外のリスナーを中心にこのサイトで掘っている愛好家は多いと思われ、その記事の内容・質的にももはやメディアとして認識されている節もある。このサイトが紹介したからなのかは実際にはわからないが、ここで紹介された作品も現在再発されている場合も多い。

また、<Fond/Sound>も見逃せないブログだ。このサイトも同じく「ambient」や「balearic」、「fourth world」や「minimalist」、「new age」など<Listen To This>と同様のタグが存在しているが、<Listen To This>以上に日本のアンビエントニューエイジに熱を入れており、柴野さつきやオノ・セイゲン宮下富実夫、Oscilation Circuit、ゴンチチ、Killing Time、尾島由郎などの重鎮からさらにマニアックな作家が「Japan」タグに含まれている。このサイトは一つ一つの記事がかなり詳細に書かれていて読み応えもある上、<Listen To This>と同様に「Mix: 21. Healing Feeling (Awa Muse Special)」や「Mix: 13. JAPANESE AMBIENT, ENVIRONMENTAL, NEW AGE & HEALING MUSIC 1980-1993 (VOL. 1, WATER)」などといったニューエイジ系のミックスも存在している。

そして、<Sounds Of The Dawn>もかなり重要なブログだ。こちらは、前述の通り、後にレーベルも始めることとなり、ニューエイジ系のカセット作品を数多く発表している。こちらは、カセットでしかリリースされていない、つまり再発すら為されていないような、さらには、discogsなどのマーケットプレイスでも入手困難を極めるような貴重な作品を中心にアップロードしており、マニアックなニューエイジの裾野を広げていると言える。また、違法アップロードをしているブログでは無いが、Tomoyuki Fujii氏の運営する「森と記録の音楽」や、かつて<吟醸派>レーベルとレコードショップ、S.O.L. Sounds(共に今は活動を停止している)を運営していた吟醸太郎氏による「大吟醸」といったブログも日本語に於けるニューエイジアンビエント、ドローン的な音楽情報を発信していることも大きい。マニアックなニューエイジ作品を聴くに当たっては、このジャンルに於ける重要作品であっても、DIYなカルチャーでもある為に、まだ再発されていない作品も多く、これらを聴くに当たって、実際、高価なマーケットプレイスでの買い物を避け(オリジナル盤を買い集めるなどその逆のパターンも多いが)、こうしたサイトからダウンロードするという人も多いだろう。こうしたサイトは音源の入手から情報の伝播に至るまで、大きな役割を果たしていると言っても過言では無いと思う。

  • 2. 「I Am The Center(Private Issue New Age Music In America, 1950-1990)」

テン年代にリリースされたニューエイジ・ミュージックにフォーカスした編集盤の中でも最重要の作品の一つが冒頭で登場した<Light In The Attic>から2013年に発表されたコンピレーション「I Am The Center(Private Issue New Age Music In America, 1950-1990)」だろう。この作品は2CDと3LPでリリースされており、CDには44ページ、LPには20ページのブックレット/ブックが付属している。また、そのライナーを担当したのは、Yoga Recordsのプロデューサーであり、NUMERO GroupのA&RであるDouglas McGowanというのも見逃せない事実だ。ダグラスは前述のSpencer Doranなどと共に冒頭の国産環境音楽コンピのプロデューサーを務めている。本作は、アメリカに於けるプライベート・プレスのニューエイジ作品に重きを置いており、当時、本作のリリースは衝撃を以て迎えられ、Pitchforkでも「Best New Music」の称号と8.3点のスコアを獲得した。

このアルバムには、「ニューエイジ・ミュージックの始祖」とも称され、EM Recordsからもその作品が再発されているIasosや昨年来日公演を行ったニューエイジ界の生ける神であり、ブライアン・イーノ細野晴臣ともコラボレーションしているLaraaji、米国版「喜多郎」とも言えるAeoliah、サンフランシスコのテープ・ミュージック・センターで学び、Robert AshleyやTerry Rileyに師事した女性音楽家のJoanna Brouk、ニューエイジ大御所、Steve Roachともコラボレーションを行っているマルチ・ジャンル・コンポーザー/サウンドトラック・デザイナー/プロデューサーであり、名作「Planetary Unfolding 」でも知られるMichael Stearnsなどを始め、正真正銘のヒーリング・ミュージックの金字塔とも言えるメンツが収録されている。Steven HalpernやThomas De Hartmann、Don Slepianなど、この作品が再発されるまでは日本どころか米国でもあまり知られていないような作家も数多くコンパイルされた。この作品は当時、世界的に大ヒットし、恐らく数千枚が流通。ライトリスナー層にも広くリーチしたと思われる。最初のニューエイジの主要なレーベルが形成されていった時代である60年代後半から70年代前半の第一の黄金期から50年代にも遡るその雛形を含む、薬物や精神病、政治的絶望など、時代の流れへと辟易し崩壊していくヒッピーたちの受け皿ともなった音楽の数々である。これ以降、「ニューエイジリバイバル」という言葉を耳にする機会は確実に増大していったように感じる。また、同レーベルは、2018年に「Omni Sight Seeing」や「コチンの月」などのアンビエント作品を含む、細野晴臣の70〜80年代の作品の再発や、1969-73年までの日本のアンダーグラウンド・フォークやロックの金字塔の数々を収録したコンピ「Even A Tree Can Shed Tears: Japanese Folk & Rock 1969-1973 / 木ですら涙を流すのです」(2017)の編集、ジャーマン・ロックなど、ヨーロッパのニューエイジにフォーカスした、「I Am The Center」の第二弾とも言える大編集盤「(The Microcosm) Visionary Music Of Continental Europe, 1970-1986」(2016)の制作も行っている。

  • 3. 「テン年代地下カセット・カルチャーの興隆」

ゼロ年代から「フィジカル」リリースに於けるフォーマットへのこだわりというものは、デジタルでの音源配信がよりいっそう加速してから強いものとなっていったように思う。ゼロ年代には「CDr」カルチャーなんてものまで存在していた。そして、ニューエイジリバイバルの文脈で見逃されがちに思うが、「カセット」という媒体に於いてテン年代に発表された同ジャンルの作品の数々は忘れてはいけない。おなじみのOneohtrix Point Neverの初期カセット作品のリリースやJames Ferraroが主宰していたエクスペリメンタル・ミュージック・レーベルである<New Age Tapes>(CDrのリリースも多い)、また、そのJames FerraroとThe Skatersを組んでいたSpencer Clarkによる<Pacific City>や<New Age Cassettes>、<Not Not Fun>などといったゼロ年代後半より現れた、エクスペリメンタル・ミュージックに於ける時代の変遷を感じるレーベル群から徐々に発展し、テン年代にblogspotやBandcampを中心に展開され、大きなムーブメントを見た米国発の地下カセット・カルチャーもニューエイジリバイバルの加速に多大な貢献をしている。このムーブメントの中で数多くの「ローファイ」なアンビエントニューエイジ、ドローン作品がカセット(CD、CDrやLP、デジタルも多く含む)で発表されていった。ここで、そのムーブメントを盛り上げた主要なレーベルたちについて、幾つか紹介する。

まず、アメリカ・インディヘナのレーベルで、当時日本にもよく流通していた<Sacred Phrases>から紹介していく。

現行のエレクトロニクスやエクスペリメンタル・アンビエント、ドローン・ゾーンへとフォーカスしていたレーベルで、リリースした作品数は70を優に超える。こちらの作品には当時、<Meditations>という僕がよく通っていたレコード・ショップを通してよく購入した。日本のドローン・ミュージックのパイオニアであり、膨大な作品をリリースしてきたHakobuneを始めとし、Sun ArawとThe Congosとのコラボレーションで<RVNG>からも登場している実験作家のM. Geddes Gengras、Nite JewelのRamona Gonzalezによるサイド・プロジェクトMaia、ゼロ年代前半から活動し、90近い作品を残すシンセシストで、地下カセットカルチャーの生き字引的なPulse Emitter、ティム・ヘッカーの作品への参加やライブへの参加でも知られるモントリオールのミュージシャン、Kara-Lis Coverdaleなど、そうそうたるメンツが揃っており、カセット界隈に於けるアンビエントの聖地の一つと言えるレーベルである。前述の<Meditations>によく入荷されていたため、日本で現行のカセット作品に触れる音楽好きにとっては、地下カセットカルチャーに於ける重要な入門レーベルと言えた。

そして、<Sacred Phrases>と並ぶか、それ以上に重要なレーベルが、Steven Ramseyが創設、運営しているオークランドの<Constellation Tatsu>だろう。

このレーベルは、毎シーズンに4本のカセット・バッチを発表することでも知られている。また、音源の多くが「name your price」の形式であり、フリーダウンロード出来るため、デジタルで入手して聞いている人も多くいたと思う。このレーベルは、110以上のカセットをリリースしている大御所レーベルであり、作品の多くがソールドアウトしていることも多い。このレーベルには、前述のHakobuneやKara-Lis Coverdale、やけのはら、P-RUFFとのUNKNOWN MEでの活動など日本の現行アンビエント・シーンでも一際以降を放つH. Takahashi、地下アンビエント・シーンでも随一の美しさを誇ったFormer Selves、<Orange Milk>主宰でおなじみKeith RankinによるGiant Claw、<White Paddy Mountain>を主宰する日本のミュージシャン、Chihei Hatakeyamaなどによる数多くの素晴らしい作品が残されている。こちらも前述の<Meditaions>でカセット・バッチが出るたびによく扱われていた。今でも運営は続いており、そして、前述した通り、「name your price」で入手出来る作品が多いため、後から気になった人でも入りやすい入門レーベルの鑑だ。

そして、このシーンに置いて何より重要な場所がご存知の方も多いであろう、日本でもレーベルショーケースが開催されたこともある<Orange Milk>であろう。

このレーベルは純粋なアンビエントニューエイジ、ドローン・ミュージックを発信しているレーベルではない。ヴェイパーウェイヴや現行のエクスペリメンタルなどと混淆し、それまでのニューエイジアンビエントではない、「新定義された(=リサイクルされた)ニューエイジ」の形をポップに泥臭く示した画期的なレーベルであった。また、数ある現行のカセット・レーベルの中でも最も有名なレーベルと言い切ってよい。数多のメディアで取り上げられ、ストリーミングで聞ける音源も多いため、カセット購買層以外にもリーチしていた印象を受けるし、<Meditations>でもヒット商品として頻繁に扱われ、ここからカセットに入っていった人は非常に多い印象を受ける。今やベッドルーム・ニューエイジ・ポップの人気者となったJerry Paperや日本のジューク/フットワークの名門<Booty Tune>を主宰するDJ Fulltono、<RVNG>からのリリースや来日で一躍ヒットを飛ばしたKate NVなど、カセット・レーベルの中でも異色かつそうそうたるメンツを揃えるレーベルだ。そして、ここはテン年代ニューエイジ・ミュージックの大きな変化を遂げる上で最も重要な作品と言っても過言ではない一枚もこのレーベルはリリースしている。それが主催者Keith RankinによるGiant Clawの存在を最も印象付けたこの「Dark Web」である。

本作は、2014年にLPでリリースされ、翌年カセット化もされた。両媒体とも当時入手したが、個人的にもこの作品を通して、カセット・カルチャーの深みにハマった思い出深い作品でもある。一部で議論も呼んだが(省略)World's End Girlfriendが主宰する国内の有名レーベルである<Virgin Babylon Records>から日本盤もリリースされた。

「OPN × Prince × Juke/Footwork」とも評された本作は、様々な年間ベストに選出されており、2014年を象徴する一枚にもなった。プランダーフォニックスからヴェイパーウェイヴ、トラップ、フットワーク、アンビエントニューエイジなどを横断した、大変意欲的な本作は、Ellen ThomasとKeith Rankinによる鮮烈なアートワークや、昨年来日を果たしたDeath's Dynamic Shroud.wmvの一員としても活動するJames WebsterによるPVの映像のイメージを裏切らない、大きな爪痕を残す作品であった。当時、これは本当に話題になって、批判的な意見も多く寄せられていたが、僕は結構普遍的な作品に感じるし、それだけ話題を呼んだこと自体相当凄かったと思う。寄せ集められた過去の遺物と当時の新進気鋭の音楽が、インターネットの深淵の記憶の汚泥の中で混ざり合い、「今までなかった」世界を作り上げた稀有な例と言える。FM音源も印象的であり、そのビートもプリンスのドラム・マシンの打ち込みにも通じるタイトさ、サンプリングによる新しいものと古いものの混ぜ方が上手く洗練されていてポップだ。この作品のヴィジュアル・イメージは、<Orange Milk>が「ヴェイパー・ウェイヴのレーベルである」という一般的イメージも聴衆に植え付けた(実際はそうではない音楽が多いが、一部ヴェイパー・ウェイヴのクラシック的作品も残している)。この作品のリリース以降、<Orange Milk>のジャケット・イメージもハイセンスに洗練され、このレーベルのエレクトロニック・フュージョンの路線が完全に確立されていったし、何よりより広い層が「カセット・レーベル」へと興味を持ち始めるようになったと記憶している。また、それ以降、ニューエイジリバイバルが地下シーンの深淵から、より広範なシーンへと急速に普及していった。

この他にも、この手のレーベルはあまりにも膨大でとても語り切れないが、他にも<SicSic Tapes>や<No Kings>、<Hobo Cult Records>、<Rainbow Pyramid>、<Phinery Tapes>、<Rotifer>、<Sunshine Ltd.>、<Carpi Records>、<Bridgetown Records>、<吟醸派>、<Tranquility Tapes>、<Cosmic Winnetou>、<Patient Sounds>、<Space Slave>、<Not Not Fun>、<1080p>、<Umor Rex>辺り(多くてごめんね)は最低限知っていると地下カセットシーンに於けるアンビエントやドローン、ニューエイジを楽しめる。このムーブメントが2015年に頂点を迎えたように思う。その頃から、カセットという媒体でのリリースは、メジャー・レーベルや日本にまでも届いたが、時を同じくして、地下シーンでは逆にリリース量が減っていった。その理由は、商業としての採算的にやっていけなかったことや、皆が皆、カセットに手を出し始めたが故に、当時のレーベルたちが持っていたミステリアスさが失われ(そのことについては当時一部の作家やレーベルが皮肉的に言及していた)、辞めていったからという状況から推し量れる。もちろん、今でも一定数のレーベルは存在しているし、リリース量自体は昔より少し増えているのだが、それは今は別文脈のシーンが盛り上がっていること、また、従来のローファイなアンビエントなどのシーンに於いては昔に比べてその質は、ファンの熱量ともに減退しており、有名なレーベルでもソールドアウトしないことが多くなっている(昔は50や100本のカセットの争奪戦であった)。この当時のカセットカルチャーを代表した、同時多発的なアンダーグラウンドの音楽が群雄割拠した「一体感」は現在では失われてしまっている(ただし、それは「ローファイ」なアンビエントニューエイジ、ドローンの文脈に於いてと言うべきかもしれない)。今やそのカセットの重要作品の多くは高額になっていたり、廃盤で入手出来ないことが多く、discogsなどのマーケットプレイスでも出品されていないなど、後追いには厳しいのがネックではあるが、こうしたカルチャーの中で「ローファイ」なニューエイジアンビエントが興隆を見ていたことは記憶しておくべきであろう。また、この時期、これらと非常に近いシーンにおいて、Tim HeckerGrouper、Natural Snow Buildings、Emerarlds、Jefre Cantu-Ledesmaなどを始めとした、Andrew ChalkやChristoph Heemann、ジム・オルークら以降の、ゼロ年代後半からテン年代前半頃の新しい世代の作家によるドローン・ミュージックが最盛期を見たという点にも留意すべきだ。彼らと前述のカセット・シーンはしばしば密接に交差していたことも事実である(必ずしも彼らがカセットで作品をリリースしていたわけではないが)

これら、テン年代に活動したカセットレーベル群については、ジャンルはバラバラになってはいるが、それなりに重要どころは網羅されていると思うので僕がdiscogsで作ったこのリストを見てみてほしい。

これらのシーンから発信された音楽は、ニューエイジリバイバルが、今のようにより洗練された音楽へと移り変わっていく前夜として記録されるべきだろう。また、同時期のツイッターフェイスブックなどの普及は、こうした音楽を共有していく「シェアの文化」をより熱のあるものとした。前述の記事で、これらと近いシーンに存在したレコードレーベル兼mp3ブログのRoot Strataでのヴィジブル・クロークスのミックスなどについても言及したが、こうした文脈から現行の活発なニューエイジ再評価の流れが準備されたことは頭に留めておく価値があると思う。

忘れてはいけないのが、前述したニューエイジ・ミュージックのパイオニア的デュオである、ポートランド在住のSpencer DoranとRyanの二人による、Visible Cloaksによってウェブ公開されたミックスの数々である。彼らについては<Massage Magazine><Ableton>でのインタビューに詳しい。メンバーのスペンサーが00年代にソロ名義で来日した際に触れた森田童子のレコードや、吉村弘との出会いが彼をニューエイジ道へといざなっていくことになる。

まず、最初に話題を呼んだ画期的なミックスを紹介しよう。日本の第四世界的な音楽へと聴衆を連れ去ることとなる最重要なミックスだ。

Rootmix – Fairlights, Mallets and Bamboo Fourth-world Japan, years 1980-1986 – Spencer Doran - Root Blog(リンク先でフリーダウンロード可)

TRACKLIST:

Haruomi Hosono – “Down to the Earth“ from Mercuric Dance
Ryuichi Sakamoto – “A Rain Song” from Esperanto
Mkwaju Ensemble – “Ki-Motion” from Ki Motion
Haruomi Hosono – “Air Condition” from Philharmony
Mariah – “Shisen” from Utakata no Hibi
Yasuaki Shimizu – “(Untitled Pieces for Bridgestone)” from Music for Commercials
Mkwaju Ensemble – “Lemore” from Mkwaju
Seigen Ono – “Mallets” from Seigen
Masahide Sakuma – “WINDOWS/Hi!!” from Masahide Sakuma
Geinoh Yamashirogumi – “Agba’a” from Africa Genjoh
Yasuaki Shimizu – “(Untitled Piece for Tachikawa)” from Music for Commercials
Danceries – “Grasshoppers” from End of Asia
Phew – “Closed” from Phew
Haruomi Hosono – “Windy Land” from The Endless Talking
YMO – “Loom” from BGM

DJでニューエイジなんてかけてもまだ相手にされなかった時代、彼は既にニューエイジへと連なる日本の80年代の音楽を発掘していた。今回のミックスでは、まず、細野晴臣坂本龍一YMOなどYMO関連といった「日本の80年代のオルタナティヴな音楽」に於ける外国からの「ニューエイジアンビエント的アプローチ」の再発見から始まる。そして、後に再評価が大きく進むこととなる、ムクワジュ・アンサンブル(高田みどりが在籍している)やマスタリング・エンジニアとして孤高の地位にあるオノ・セイゲン、今やニッチな音楽好きに大人気な国産アヴァン・ウェイヴ/プログレ・バンド、マライアとそれを率いたサックス奏者、清水靖晃、関西ニューウェイヴの旗手であった大阪出身の女性アーティスト、Phewなどを始めとしたメンツによる「80年代の日本の音楽」を探求した。この後マライアの「うたかたの日々」が再発されるのは2015年、ムクワジュ・アンサンブルの二作品は2018年、清水靖晃の「案山子」は2016年、「Music For Commercials」は2017年、「Dementos」は2019年と、実際に再発され正当に評価を受けるよりも数年早い時点で、スペンサーは辿り着いていた。

Spencer D – Mixtape for The Lake Radio

TRACKLIST:
Tsukasa Suzuki – Telephone Singer
Lury Lech – Ukraïna(Iury Lechの誤字と思われる)
Unknown Burundi Singers – Duo De Jeunes Filles / Solo De Femme
Patricia Escudero – Valse du chocolat aux amandes (Erik Satie, 1891)
Michel Chion – La machine á passer le temps
Other Music – MN.2
Ricardo Mandolini – Cancion De Madera Y Agua
Raviv Gazit – One
Lena Platonos – Γκάλοπ
Pep Llopis – El Vell Rey de la Serp
Clannad – Ocean of Light
Suso Saiz – Nada de lo que Sucede
Hiroshi Yoshimura – Soft Wave For Automatic Music Box
Lino Capra Vaccina – Vocis
Todd Barton – The River Song
Nóirín Ní Riain – An Caoineadh
Inoyama Land – Tide
Nuno Canavarro – Antica/Burun

続いて、2015年に公開された、アンビエントとコンクレート・サウンドとテクスチュアに着目したミックスも秀逸である。ここでは、ウクライナの出身であり、スペインで活動したマルチメディア・アーティストのIury Lechや同国のピアニストであり、エリック・サティシンセサイザーで解釈したPatricia Escudero、プログレッシヴ・ロックバンドCotó-En-Pèlのメンバーとしても活動したキーボーディスト、Pep Llopis、以前ブログでも取り上げたスペイン音楽界の重要作家、Suso Saizなどを始めとした「マドリッド音響派」に属するアーティストから、おなじみの吉村弘、ヒカシューの前身であり、昨年大きな再評価を得たイノヤマランド、 70年代のイタリアを代表する前衛民族音楽集団、Akutualaでも活動したパーカッショニストLino Capra Vaccinaなどを始め、前回のミックスからまた一歩深みへと向かったミックスとして構成されている。前回にも増して、無名な作家もかなり多く含まれている。特筆すべきことに、この中ではこの後、Iury LechやPatricia Escudero 、Pep Llopis、Suso Saiz、吉村弘、イノヤマランド、Nuno Canavarro、Todd Bartonといっ多くの収録アーティストの作品が再発/編集盤が組まれていることだろう。彼はここでも既に一歩先を行っていたことになるし、2万回以上再生されたこのミックスの影響力を物語っている。

Music Interiors Vol. 2: Interni Italiani

tracklist:

Daniel Bacalov – “Africa L’Animali” Il Ladro Di Anime
O.A.S.I. – “Il Gioco Dei Sogni” Il Cavaliere Azzurro
Roberto Musci / Giovanni Venosta – “Nexus On The Beach” Water Messages On Desert Sand
Piero Milesi / Daniel Bacalov – “Camera 2° Parte” La Camera Astratta
Riccardo Sinigaglia – “Attraverso (excerpt)” Riflessi
Elicoide – “Mitochondria (excerpt)” Elicoide
The Doubling Riders – “Chinese Comedy” Doublings & Silences Vol. II
Roberto Laneri – “Animalia” from Anadyomene
Goffredo Haus – “Cielo” Musiche Per Poche Parti
Francesco Messina – “Comunicazioni Interne” Medio Occidente
Roberto Donnini – “T 2 A (excerpt)” Tunedless
Mario Piacentini / Roberto Bonati / Anthony Moreno – “Sealed in a Transparent Cube (excerpt)” Frozen Pool
Magazzini Criminali / Jon Hassell – “Camminavo Nella Sera Piena Di Lilla” Sulla Strada
Vincenzo Zitello “Arilels” Et Vice-Versa
Roberto Mazza “Stanze Parallele” Scoprire Le Orme
Raffaele Serra – “Maldoror Theme” Kodak Ghost Poems
Giovanni Venosta – “Woman In Late” Olympic Signals
Andreolina – “Music In A Small Room” An Island In The Moon
Piero Milesi (w/Riccardo Sinigaglia) – “The Presence Of The City” The Nuclear Observatory Of Mr. Nanof

さらに2016年に発表されたイタリアのミニマル・ミュージックアンビエント、前衛音楽にフォーカスしたミックスは、より深い場所へと向かうことになった。個人的にもGigi Masinの再評価を経て、イタリアの地下シーンへと興味を持つきっかけとなった画期的なミックスである。昨今は、<Black Sweat>や<Soave>、<Die Schachtel>、<Archeo Recordings>、<Spittle Records>を始めとした同国のレーベルが、実験音楽大国として知られるイタリアの地下シーン再発に躍起になっているが、実際にこれらのレーベルから、この中のDaniel Bacalov、Roberto Musci / Giovanni Venosta、O.A.S.I.、Piero Milesi、Riccardo Sinigaglia、Elicoide、Francesco Messina、Roberto Mazza、Andreolinaといったアーティストやグループが再発されている、奇しくもそれらが実現していくのはこのミックスの発表後。ミックス自体も4万回近く再生され、未曾有のヒットを飛ばしている。このミックスにもその傑作の多くが収録された通り、イタリアのミニマルやアンビエントニューエイジもまた世界でも類を見ない興隆を70年代後半から90年代前半に渡って見せていた。<Cinedelic Records>の姉妹レーベルとして2016年に始動した<Soave>の活躍は目覚しく、イタリアへとフォーカスしたその質は類を見ないレベルであり、前述の作家の大部分を再発した。ここもまた<Music From Memory>や<Growing Bin>などの名門と並ぶニューエイジ系の最も重要な再発レーベルと言える。このミックスの存在意義もさることながら、地中海特有の豊穣な民族文化とイタリア未来派に始まる様々なアヴァンギャルドや現代音楽、前衛的なライブラリー・ミュージックなどが興隆したイタリアの地の文化的豊かさと、その郷土愛に裏打ちされたイタリア人の深さと崇高さを感じる、「深淵」という形容が相応しい素晴らしいミックスだ。 

VISIBLE CLOAKS - SANPO 100

 

そして、昨年、人気番組<NTS Radio>に番組を持つオーストラリア・メルボルンの人気ポッドキャスト・シリーズ、<Sanpo Disco>から発表された最新のミックスでは、さらに深みへと迫った。日本の作家も多く収録しつつ、もはや、まだ再発すらされていないような作品も数多くミックスした。この中でのちに再発されているのは、Daniel BacalovとPablo's Eye、山口美央子くらいである。歌モノも多く収録し、もはや、ジョン・ハッセルの提唱した「第四世界」の世界観ともまた違う独自の境地へと至った。エキゾティック/オリエンタルな要素を織り交ぜつつ、往年の音響派的な側面からもアプローチしたシンセ・ミュージックのミックスとして、途轍もない境地にあるが、もう国籍すらも遥かに超越してしまったという印象を覚える。個人的に一風堂土屋昌巳プロデュースでも知られ、昨年、急遽復活し、数十年ぶりの新譜を発表したばかりのシンガー/作曲家、山口美央子の「月姫」収録曲の「白昼夢」が使われているのがかなり高得点である。度を超えてミステリアスな歌声に、溶け入るようなシンセサイザー、80年代特有のリヴァーヴ感とオケの感じに吸い込まれる曲だ。ここではもう、歴史の隙間に埋もれた音楽の「発見」や「再発見」というよりも、新たなる価値を提示する領域にいると言っても過言ではない。

これらのミックスで恐らく彼は非常に高価なオリジナル盤を入手して製作をしていたと思われる。前述の通り、多くの作品が当時再発されておらず、ネットでも販売されていないからだ。ハード・ディガーとしても知られるFour Tetにも引けを取ることはない。

何といっても、ニューエイジアンビエントへとフォーカスし、その再評価を推進した数々のレーベルを抑えておくべきであろう。前述のアンダーグラウンドなカセット・カルチャーの興隆にて発信された「新しいニューエイジ」。そこから、温故知新か、過去を見つめ、新たな潮流を巻き起こしていこうとするかのように数多くの再発レーベルがテン年代中ごろより誕生し始めた。この潮流に初期から多大な貢献をしていたのが、地下カセット・シーンやヴェイパー・ウェイヴとも共振し、La Monte Youngの「永久音楽劇場」の再発でも知られる、ベルギーの<Aguirre Records>、Sean McCannが主宰する<Recital>(ニューエイジというよりドローンやアンビエント、ミニマルが中心であるが、Sean McCannやIan William Craigなどの作品群は非常に重要)、Laurie SpiegelやCarl Stoneらの再発でも知られる<Unseen Worlds>などが挙げられる。

この中でも特に重要なレーベルについて、少し紹介する。まず、アムステルダムの<Redlight Records>が2013年より運営しているリイシュー・レーベルであり、Youtubeアカウントでの音源の再生回数もそれぞれ万越え、数千枚単位でヒットを飛ばし、今や世界中で大きな人気を誇る<Music From Memory>の名前は覚えて欲しい。

<Boiler Room>や<Resident Adviser>などにミックスを残す、世界トップクラスのディガーであるJamie Tillerと、バレアリック・プロデューサー、Jonny NashとのSombrero Galaxyの一員としても活動していたTako Reyengが主宰し、サブレーベルにクラブ・ミュージックにフォーカスした<Second Circle>がある。今や世界中のレコ屋が主力商品として取り扱うこのレーベルは、ニューエイジリバイバルに於いて最大の貢献をしたレーベルと言っても過言ではない。

サーファーでありペインターでもあるという知られざるアーティストであり、<Vinyl-on-demand>からも再発盤が組まれた米国のアンビエント作家、Leon Lowmanの再発からレーベルをスタートし、初っ端から数千枚規模のヒットを記録、翌年にリリースされた、傑作「Wind」でも知られるイタリアのアンビエント作家、Gigi Masinの作品を集めた編集盤「Talk To The Sea」はさらに広く認知された。そして、<Rough Trade>からデビューし、日本のファッション/サブカルチャーにも大きな影響を及ぼした甲田益也子と木村達司によるユニット、Dip In The Poolの楽曲を収めた12インチ、以前ブログにも取り上げたイタリアの作曲家、パフォーマー、サックス奏者のRoberto Musci、ブラジルの電子音楽にフォーカスしたコンピレーションである「Outro Tempo: Electronic And Contemporary Music From Brazil 1978-1992」など、傑出した発掘リリースの数々を世に送り出しており、実際このレーベルの再発作品には殆どハズレが無い。

彼らは、ニューエイジアンビエント中心にアブストラクトなアフリカン・ミュージックやニューエイジ感のあるニューウェイヴ作品を再発/発掘リリースしてきた。彼らの放っている統一感のあるヴァイブスは、<NTS Radio>などのポッドキャストを通して、DJなどを中心にクラブ・シーンでも高く評価され、ニューエイジのクラブ・シーンからの「発見」が実現した。そして、数年後に登場するカナダの<Seance Centre>やイタリアの<Soave>、ベルギーの<STROOM>はこのレーベルの影響を受けているようにも思える。ニューエイジリバイバルに於いて、「Music From Memory」以前と以降が確かにあると思われる。ここ2年ほどは以前ほどの勢いは無いものの、Youtubeの関連動画を漁っていく音楽好きたちにはもうお馴染みの存在になった。

また、ベルギーの<Aguirre Records>の活躍も見逃せない。 

2010年から活動するこのレーベルは、ニューエイジアンビエントのみならず、ミニマル・ミュージックやヴェイパー・ウェイヴ作品も掘り起こし、また、過去の名作品のみならず、当時はまだ無名であったような現行作家の作品も多くリリースしてきた存在だ。特に、ミニマル・ミュージックの宝庫である<Shandar>の作品を再発したサブレーベルの<Les Séries Shandar>の功績は偉大であり、La Monte Young、Steve Reich、Terry Riley、Charlemagne Palestineとミニマル・ミュージックの巨匠たちによる歴史的にも重要な作品を現代へと再提示した。Brainticketのメンバー、Joel Vandroogenbroeckや、テキサスを代表するシンセサイザー・ミュージシャン、J.D. Emmanuelによるニューエイジの傑作を再発/発表していることも見逃せない。

そして、C V L T SやPanabrite、Pulse Emitter、Expo '70などといった、カセット界隈で活躍する現行作家の作品にも、アンビエントやドローンを中心に良質なリリースが多い。また、ヴァーチャル空間上に於ける蒸気の波の立役者の一人である、James Ferraroや、New Dreams Ltd.やSacred Tapestryといった、「フローラルの専門店」で知られるヴェイパー・ウェイヴ史上最重要のアーティスト、Macintosh PlusことRamona Andra Xavierの別名義の作品なども再発し、既に「クラシック」として語られるようになって久しいヴェイパー・ウェイヴの再提示も行っている。<Music From Memory>ほどの爆発的なヒットを飛ばしているレーベルではないが、ミニマル最重鎮、La Monte YoungやCharlemagne Palestineの再発リリースは広く知られ、現代のミニマル愛好家にとって重要なヴァイナル盤となっている。ミニマル、アンビエントニューエイジ、ヴェイパー・ウェイヴに重きを置いた、質も高く、軸のあるラインナップが非常に魅力的だ。

そして、ビート・ミュージックの盟主、Flying Lotusの主宰する名レーベル<Brainfeeder>からも作品をリリースしているビートメイカー、Matthewdavidが<Stones Throw>の傘下で運営している<Leaving Records>も特筆すべき存在だ。

このレーベルは、ニューエイジ中心というよりは、「LAビート」以降の命脈に深く寄り添うレーベルであり、SeihoやRas G、Dakimなど、卓越したビートメイカーを世に送り出してきた。作品数は150を優に超えている。しかし、ここのリリースのうちの幾らかも「ニューエイジ再興以降」のニューエイジを通過したビート・ミュージック作品、つまりは「再定義(=リサイクル)されたニューエイジ」の文脈の中で成り立っている作品として仕上げられている(Sun Araw & Matthewdavid「LIVEPHREAXXX!!!!」、Seiho「Collapse」、 Carlos Niño & Friends「Flutes, Echoes, It's All Happening!」、 Odd Nosdam「Sisters Remix EP」などがその例だ)。また、彼らがカセットでその作品を再発/発掘してきたニューヨークのニューエイジャー、Laraajiの存在も大きい。また、前述のCarlos Niño & Friendsの作品には、ニューエイジの始祖と呼ばれたIasosもゲストで参加していた。また、Matthewdavidの妻であるDivaも秀逸なニューエイジ作品で知られる。「ストリート」と「ベッドルーム(そして仮想現実空間)」を繋いでいるとも言えるこの<Leaving Records>と、インターネット・ナードの妄想の具現化であり、「ベッドルーム」に居場所を置いている<Orange Milk>の世界観も、相容れないようでどこか通じているようにも感じる。

Laraajiは、ele-kingでのインタビューでこう述べている。

ニューエイジについては、「新しいリスニング体験ができる時代」という意味で捉えている。いまのテクノロジー、技術的な進歩によって可能になった、自分たちの耳で捉えることのできるサウンドのテクスチャーとか新たな聴き方があると思う。たとえば、みんな車のなかで聴いたり家で聴いたりすると思うけれど、より良い音でより良いテクスチャーでその音を体験できる時代がいまはある。それがニューエイジだと、私は思っているよ。」

(interview with Laraaji ニューエイジの伝説かく語りき  | ララージ、インタヴュー | ele-king)

Wikipediaなど当てにならない、ニューエイジの定義は曖昧模糊としているが、この言葉を<Leaving Records>や<Orange Milk>、<Noumenal Loom>などのレーベルたちがテン年代に発信してきた音楽に当てはめると自然と合点が行くようにも思える。

Leaving Recordsで私がやろうとしているのはニュー・エイジの革新、つまり現代に向けたニュー・エイジの新機軸と拡大です。Matthewdavid

(Abletonによる2016年3月24日のインタビュー記事より)

他にも挙げればキリが無いが、音楽ブログから発展し、バレアリックの貴公子Andras Foxやポーランドの新鋭Bartosz Kruczyńskiなどといった現行作家の作品も手がけている<Growing Bin>、前述の<box of toys>のブログからレーベルへと発展した、世界各地のマニアックなエレクトロニクスを再発する<Orbeatize>、ニューエイジ・ビューティーな審美眼が光るカナダの新興ディストリビューター&レーベルの<Seance Centre>、前述の<Soave>や<Unseen Worlds>、Sean McCannの<Recital>、Andrew Chalkの<Faraway Press>、昨今、<Music From Memory>と並ぶ勢いなベルギーの人気レーベル<STROOM>、OPNの主宰していた<Software>(既に活動を停止)、如月小春久石譲、小久保隆を再発した<Lag Records>、<RVNG>傘下にYellow SwansのPete Swansonがキュレーションする<Freedom To Spend>、Visible Cloaksの作品を15年にリリースし、レコード・ショップも営んでいるポートランドの<Musique Plastique>、ギリシャ電子音楽を発掘する<Into The Light>などのレーベルは覚えておいて損は無いだろう(多くてすみません)。これらのレーベルによる網羅的なアーカイブ化によって、昨今、急速に、かつてレア盤だったニューエイジ作品も手軽に聞けるようになり、また、「ニューエイジリバイバル」という単語も確立されたものとなった。

自主レーベル<New Age Tapes>を主宰し、何十もの名義を使い分け、80年代をソースとしたニューエイジやシンセ・ポップを量産し、ヴェイパー・ウェイヴ・ムーブメントの雛形となったJames Ferraroや、ブルックリンを拠点に活動し、インディ・レーベル<Software>の主宰や、ノイズ、アンビエント、ドローンを横断した実験的な作風や、ヴェイパー・ウェイヴのプロト・タイプとされる金字塔、Chuck Person名義の「Eccojams Vol. 1」でも知られる名作家、Oneohtrix Point Neverなどの活躍によって、着実に「テン年代ニューエイジ」のドレスコードが確立されていった。「テン年代ニューエイジ」とは、ひとえに純なニューエイジというよりも、様々なアブストラクトであったり、実験的な音楽やクラブ・ミュージックなどと混ざり合い、それまでとは「別」の新たなる音楽の形成が為されていった、又は試みられているという事象とほぼ等しい。それまでのニューエイジとは別物の、ビート中心の音楽も増えていくことになる。これらが発達し始めるまでの間、前述したカセット界隈の「ローファイ」なアンビエント/ニューエイジ作家や、2013年頃にピークを迎えたドローン・ミュージック、「大量生産の人工物や技術への郷愁、消費資本主義や大衆文化、1980年代のヤッピー文化、ニューエイジへの批評や風刺として特徴づけられる」(Wiki原文まま)ヴェイパー・ウェイヴなどといった音楽が、シーンの醸成に大きな役割を果たしていたように思う。

また、2013年頃から、既存のニューエイジ・ミュージックとそれ以降の新ジャンルとの混淆が目立つようになり、同年には、Sapphire Slows「Allegoria」、Holly Waxwing「Goldleaf Acrobatics」、Angel 1「Liberal」、Co La「Moody Coup」、翌2014年には、D/P/I「MN.ROY」、Imperial Topaz「Full of Grace」、Torn Hawk「Let's Cry And Do Pushups At The Same Time」、Seahwaks「PARADISE FREAKS」、RAMZi「Bébites」など、「再定義されたニューエイジ」がいよいよ大きな勢力を持つようになった。特に、<Not Not Fun>/<Big Love>脈である東京の女性プロデューサー、Sapphire Slowsの「Allegoria」はクラブ・ミュージックやアンビエントを横断した新世代のシンセ・ポップの在り方を示し、東京のインディ・シーンに於ける新時代の到来を示唆した。また、Luke Wyatt名義でも知られる、ビデオ・アーティストのTorn Hawkによる、国内流通盤もリリースされた「Let's Cry And Do Pushups At The Same Time」(邦題 : 泣きながら腕立てしよう)は、元EmerarldsのMark McGuireを迎え、マニュエル・ゲッチングの「E2-E4」など往年のジャーマン・ロックの名作の感触を思い起こさせるフェティッシュなミニマル・ニューエイジ傑作であり、当時、エクスペリメンタル好きのみならず、インディ・リスナーにもリーチし、各地で話題を呼んでいた。

2015年に入ると、前述したTim Heckerとのコラボレーターであるカナダ出身のキーボーディスト、Kara-Lis Coverdaleや、本記事ではおなじみVisible Cloaks、西海岸からアムステルダムを拠点に<Melody As Truth>レーベルの中心人物として活動する新世代バレアリックの貴公子のSuzanne Kraft、そして吉村弘、HANS-JOACHIM ROEDELIUS、エリック・サティまで、家具の音楽から環境音楽に於ける新たな命脈を紡ぐ、東京のアンビエント作家、H.Takahashi、ニューエイジ/電子音楽のパイオニア、Suzanne Cianiともコラボレーションしている、オーカス島出身の女性作家、Kaitlyn Aurelia Smithなどに代表される作家たちが傑出した作品を数多く残し始め、同年のカセット・シーンの最盛期や、翌2016年に迎えることとなるヴェイパー・ウェイヴの最盛期とも共振するように、インターナショナルなシーンへと進出する中堅作家も多く見られるようになってきた。

そして、2016年には、ハウス・レーベル<Future Times>を主宰するMaxmillion Dunbarのコアメンバーでもあるニューヨークのプロデューサーで、Visible CloaksともコラボレーションすることとなるMotion Graphicsがなんと英国の大手レーベル<Domino Records>からデビューも果たすなど、「テン年代ニューエイジ」はメジャー・シーンにもリーチした。また、スペイン・イビザ島の高級ホテルでDJとして引っ張りだこであり、同地で<International Feel>を運営しているウルグアイ出身のMark Barrottも最新系のバレアリックを切り口に「ニューエイジ再興」へと一役買っている。連動するかのようにこの頃からニューエイジアンビエントの過去のレコードの再発も増え始めた。そして、2017年には、序盤で述べたVisible Cloaksの金字塔「Reassemblage」の発表やスイスの<WRWTFWW Records>からの高田みどりの「鏡の向こう側」の再発リリースへと繋がっていくという次第である。

このようにして、枚挙し切れないほどに膨大な程の要因が複合的に絡み合い、「テン年代ニューエイジリバイバル」は進展したと思われる。他にも、これらに関連していると思われる、日本の新旧シティ・ポップなどの盛り上がりによる世界的な「和物」ブーム(=海外のディガーによる日本の音楽への注目)や、ヴェイパー・ウェイヴ、フューチャー・ファンク、ポスト・インターネットなどのカルチャーに於ける問題は自分の今の力量では論じ切れないため、今回は省略しているが、何の因果か、ヴェイパー・ウェイヴが勃興した2010年以降に「ニューエイジ再興」が加速していることは注目に値する。そして、Chee Shimizu氏の<Organic Music>やdubby氏の<Ondas>、北海道の<silencia>、discogsの調査で世界で最も行きたいレコ屋にも選ばれた<Face Records>などといった、マニアックなアンビエントニューエイジ、国産音楽のレアな中古盤を販売している日本のレコード・ショップの役割も大きい。

こうした、貴重なヴァイナルが世界中のハード・ディガーなDJたちによって、国際的に循環し、これらのレコードが掘り起こされ、実際に現場でプレイされたり、ストリーミング・ラジオで配信され、一般的な聴衆の耳にも届いたことは大きい。地下シーンとクラブ・シーンが密接に同期しあって、新たな潮流が生まれてきた。序盤で述べた通り、「ピーク」を迎えたように感じられるこのムーブメントであるが、まだまだ、世に再提示されていない作品も多く、流れが一巡するまでこの勢いはまだまだ続くていくことだろう。さて、「テン年代ニューエイジ」は、基本的にオブスキュアな世界にいて、深い意味でのオルタナティヴな意味合いを強く持つように思う。思想、その音楽性、デザイン、流通、その全てにおいて、従来の商業ニューエイジとは一線を画していると言えるかもしれない。このように、80年代以降、垢抜けないものと長きにわたって虐げられてきたヒーリング・ミュージックは、他ジャンルとの壁を食い破ることで確実に進化を遂げ、今や(ちょっとニッチなものを経由した)数多くの音楽リスナーにとって「サマになる」ものとして、認識されるに至ったわけだ。

最後にSpotifyApple Msuicで作ってあるニューエイジのプレイリストを貼っておく。かなりの曲数入っているが、アルバムごと突っ込んでいるので、シャッフルでもして聞いていただけるといいと思う。