Emerald Web – Dragon Wings And Wizard Tales
1978年から1990年にかけて活動したマイアミのキャット・エップル & ボブ・ストール夫妻によるニューエイジ・ミュージック・デュオ、Emerald Web。
彼らは約10年のキャリアの中で11枚のアルバムを発表し、プラネタリウムでのライブ演奏、USツアーの敢行、アメリカの天文学者/SF作家のカール・セーガンの映画にサウンドトラックを提供、86年には名作「Catspaw」でグラミー賞を受賞するなど、幅広く活動。キーボードやデジタルオーケストレーション、フルート、リリコンなどで音楽を作っていた彼らは、 「電子宇宙音楽(="electronic space music")」とアコースティック楽器のブレンドでユニークな音世界を創造しました。リリコンとは、エレクトリック・ギターやオーボエ、フレンチ・ホーンなどといった様々なサウンドを生成する、ハイブリッド・シンセサイザー/木管楽器インストゥルメントです。また、ボーカル、ボーカリスト、キャット・エップルは、自身の名義でもアルバムを発表し、テレビや映画のスコアを制作し、世界中で公演を行っています。 Emerald Webと共に演奏又は録音したミュージシャンには、エルドンのリシャール・ピナスとも共作しているバリー・クリーブランド、アンビエント作家のジョーン・セリーなどが存在しています。
今年、Long Hairから再発された本作では、クラウス・シュルツ周辺のクラウトロック/プログレッシヴ・エレクトロニックのレコードと同様にモジュラー・シンセや、スイスの電子音楽のパイオニア Bruno Spoerriが好んだリリコン風のシンセなどが用いられています。
異国風味を発揮したフルートの音色と、煌びやかに彩られた電子楽器の響き、時折挿入されるアコースティック楽器やキャット・エップルの可憐な歌声、どれも素晴らしい。ホームメイドな佇まいで愛らしいサウンドは、フルートと電子近似の狭間で常にぼやけており、外宇宙の先住民の音楽を聞いているかのようでもあります。
特筆すべきは、9曲目の"The Powerstone"、内的宇宙へと問いかけるような哀愁のそのサウンドは、キング・クリムゾンの初期、特に "Moonchild"の雰囲気を想起させます。80年代のエレクトロニック・ニュー・エイジ/ミニマル・シンセ/リラクゼーション・ミュージック・ブームのムーブメントの精神的前兆を表現したマイルストーン的アルバム。