笹路正徳(Sasaji Masanori)「クリスタルドラゴン」(1984)

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discogs

3年前の再発は世界中で大きな話題を呼んだBetter Days作品、名作中の名作「案山子」でもお馴染みのサックス奏者、清水靖晃も在籍した国産プログレ/ニューウェイヴ・バンド、マライア(Mariah)。マライア自体も再評価が進み、今やそれなりに音楽を聞いている人ならその名を知らない人は居ないほどには注目を浴びていますが、その中心人物にして、プロデューサー、作曲家、アレンジャー、キーボーディストである笹路正徳による、あしべゆうほ原作「クリスタル☆ドラゴン」のイメージ・アルバム。

この原作は非常に有名なので僕でも名前だけは知っていたのですが、まだ読んだことは無かったですね~。80年代の日本の少女漫画で、ケルト神話北欧神話の神々が登場する壮大な歴史、冒険ファンタジー漫画「クリスタル☆ドラゴン」。レコードを買ってから気づきましたが、81年の連載開始から移籍、休載を挟みつつも未だに続いているというなんともマイペースな漫画の模様。

作曲は笹路正徳と村田有美、池田多恵子、編曲とシンセサイザー笹路正徳、アートワークはあしべゆうほ、エンジニアはBetter Daysやコロムビア諸作(Mkwaju EnsembleやWha-ha-ha、板橋文夫等)を手掛ける時枝一博、ディレクターに小暮一雄、オペレーターにアニメ・レコードを数多く監修した飯野和義という布陣。1984年5月にコロンビア・スタジオで録音。さらに数曲ほどには「クリシュナ」や「卑弥呼」などの和物一大名作でも知られる村田有美がコーラスで参加しているのも見逃せません。

今作は、ミニムーグエミュレーターYAMAHA DX7、JUPITER-8 Roland、SYMONS、LIN DRUMを始めとし複数の機材を用いて制作。80年代の日本のアニメ・レコード/イメージ・アルバムらしく、Windham HillやInnovative Communicationなどに代表される欧米の主流なニューエイジ系統の洗練されたクールなサウンドというよりは、やはり日本のアニメ・レコード文脈の独自進化なプログレ&ファンタジー感が前面に出ている作品で、シンフォニックなジャパグレ感も底流に、サウンドトラック風味な美麗ニューエイジアンビエントを展開した傑作。言ってしまえば、他のアニメ・レコードの多くと同様、ニューエイジリバイバル以降皆あまり触れたがらない"クサさ"もある訳ですが、やはりこれがこのレコードたちの味であり、沼であることは言うまでもないでしょう。

個人的には、チャント的な村田有美のコーラスが美しいエスノ・ニューエイジかと思いきや、後半にはアブストラクトなミニマル・シンセ的展開までも織り込み、呪文を唱えてフェードアウトするというレフトフィールド感溢れる「邪眼」(A3)、熱情的なピアノに目まぐるしいキーボードが絡み、トリッキーでリズミカルな展開に呑み込まれるフュージョン楽曲で今作で一番リズムに富んだ「反乱」(B2)(※イランなる登場人物の若々しい爽やかな印象が中心のイメージとの事)がお気に入り。このアルバムではやはり村田有美のコーラスが神々しく花を添えています。

ちなみにこのイメージ・アルバムにはⅡとⅢも存在していて、Ⅲのレコードはかなり入手困難のようです。「シンセサイザー・ファンタジー」や「ファンタスティック・ワールド」「ロマン・トリップ」などのシリーズを始め、80年代のアニメや漫画を題材にしたこれらのレコードには、新居昭乃の「ウインダリア」や安西史孝の「イティハーサ久石譲の「吉祥天女」など、ニューエイジ系の作品も非常に多いですが、こちらも群を抜いて秀逸な一枚。また、本作は比較的入手が容易で、discogsでもあまり高騰はしていません。最後に村田有美が引き続き参加した傑作Ⅱも併せてどうぞ。

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