Piero Milesi - The Nuclear Observatory of Mr. Nanof

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異端音楽集団、Gruppo Folk Internazionaleのメンバーにして、劇伴作家としても高名なイタリアのモダン・ミニマル作家、ピエロ・ミレシによる1986年Cuneiformからのセカンド・アルバムである「The Nuclear Observatory of Mr. Nanof」、彼の制作したサウンドトラックからセレクトされたマスターピースを集めたCuniform Recordsからの一作。

ピエロ・ミレシは、1953年にミラノで生まれ、2011年にレバントでこの世を去っています。彼のキャリアはチェロや作曲、実験電子音楽を習い始めるところに始まり、1977年になると、ブルガリア出身の役者にして、ミュージシャン、演劇作家のモーニ・オヴァディア率いるGruppo Folk Internazionaleにパフォーマー&作曲家として参加。1982年になると、英国のインディ・レーベル史の代表格、Cherry Redから同レーベルのアーティストであるモーガン・フィッシャーに紹介されてファースト・アルバムを発表。そして、セカンド・アルバムである本作は、ミラノのアズーロ・スタジオで1984年に制作されました。

一つ前の記事にも書いたイタリア地下シーンの重鎮、リッカルド・シニガリアやマリオ・アルカリといったCorrenti Magnetiche人脈やStormy Sixのカルロ・デ・マーティーニなどといった強力なメンツが参加。これまでのソロ・キーボード・エレクトロニクスでの霊妙な演奏から転換して、リリコンと小規模の室内楽アンサンブルのために書かれており、ラブリーですが、より音楽的にも豊かな作品に仕上がっています。

13分にも渡る冒頭曲の"Mr Nanof's Tango"では、哀愁を伴うフルートとストリングスの音色が共鳴するように響き渡り、ストリングスとキーボードのミニマルな繰り返しが官能的で没入感たっぷり。一時間に渡る長尺楽曲である"The Kings of the Night"から抜粋されたという"The Procession"のドローン・サウンドはさながらサスペンス。"Three Figurations"では、シンフォニックなスタッカートと半狂乱するガムランの響きが印象深く、後半の展開には「プログレッシヴ」という言葉が似合います。中でも最も興味をそそる楽曲"The Presence Of The City"は、夜行性の何かを呼び起こすフォース・ディメンション系のミニマルなピアノが聴きもの。

ちなみにこの人、同国の有名アーティストへの楽曲提供を始め、THE BOOMのボーカル、宮沢和史の1997年のアルバム「Sixteenth Moon」(マヌ・カチェとピノ・パラディーノも参加した大作)のアレンジも手掛けているなど非常にアクティブな人で、同国地下シーンの重要グループ、The Doubling RidersやRoberto Cacciapagliaなどの作品でも演奏していたりと、イタリアの地下シーンを体系的に把握する上でも重要な人物です。

そして、昨日は夜も遅くに、この作品をリリースしたレコメン系レーベル、Cuneiformが一年間新譜をリリースしないというプログレッシャーには辛いニュースも舞い込んできましたが、レーベル自体を解散するわけではないようで、デジタルでのリリースに力を入れていくとのことでした。何はともあれ、今後も応援はしっかりしていきたいものです。